2020年8月13日、Epic Games の『フォートナイト』アプリが Apple に支払う30%の手数料を嫌い、自社独自の決済を始めたことで App Store からガイドライン違反で削除された。
その後、Epic Games は Apple が IBM 独占体制に挑戦した広告1984のパロディ動画を公開し、Apple が当時の IBM と同じように独占的な地位にあり、それを利用してサービスの進化を妨げているとして、Apple との訴訟に入った。
そして8月17日、Apple は Epic Games に対する反撃に出た。
Epic Games は裁判における追加の訴状で「8月28日までに独自決済なしの『フォートナイト』を提供しない場合、Epic Games の開発者アカウントを停止し、Epic Games が開発するゲーム制作ツール Unreal Engine 開発に必要なツールへのアクセスも停止する」ことを Apple から通知されたと訴えている。
Unreal Engine とは、Epic Games が提供する高機能ゲーム制作ツールで、業界で大きなシェアを握っているもの。同社の基幹の1つであり、これを止められることは大きな痛手となりうる。
訴状を見る限り、 Apple の処置で直ちに App Store 上の Unreal Engine を利用したアプリが使用できなくなるわけではなさそうだ。
既存のアプリはそのままで、あくまで Unreal Engine がこれ以上開発できなくなる、という理解になる。ただ、これはかなりの大ごとだ。
iOSアップデートのたびにアプリが動かなくなることは知られているが、次回iOSアップデートで Unreal Engine が動かなくなるとき、Unreal Engine がアップデートできないと……このツールを利用している iOS アプリはすべて動かなくなることもありうる。
Apple のゲームサービスである Apple Arcade でも Unreal Engine は利用されているが、それも巻き込むことだろう。
例えば、Apple Arcadeの目玉として登場した『オーシャンホーン2』は Unreal Engine 製だ。
そして、今後の目玉とされている『THE PATHLESS』も。
Unreal Engine は大作を中心に採用される傾向があり、Epic Games のアカウントが停止となれば Apple Arcade も、iOS / Mac で大作ゲームを待ち望むプレイヤーにもダメージがありうる。
これに対して、Epic Games は「Epic Games の事業全体を攻撃し、多くの開発者に影響を与える行き過ぎた報復である」として反発。
8月28日の期限に対する差止命令を申請しており、これは認められるとみられている。
よって、Unreal Engine が即座にアップデート停止・使用停止になることは考えづらい。
だが、Apple プラットフォームで停止になるリスクを持つツールと、そうでないツール、どちらを利用するか考えると……今後開発されるゲームは、Unreal Engine を避ける選択もありうる。
これは Epic Games の商売に少なくない打撃を与えそうだ。
さて、先日 Epic Gamesは、明確に App Store のガイドラインを破った。
過去に Apple はガイドラインを破り続ける開発者に対して警告を送ったり、アカウントの停止を行ったりしている。そう言った意味で言えば、普通の処置だ。
この面では、Apple はすべての開発者に平等で、理解できる正しいことをしたと言えるだろう。
一方、Epic Games は「Apple が独占的な地位を利用してサービスの利便性や進化を損ねている」という主張で訴訟に入っており、今回はその指摘通りに独占的な地位を使って、多くの開発者や Unreal Engine を使った製品利用者に被害を与える行動をとっているとも言える。
（実際、フォートナイトが削除されている時点で Epic Games の規約違反は終わったとも言えるのに、追加制裁する正統性は薄い）
泥沼の様相を呈しているこの訴訟だが……果たして、どこに決着がつくだろうか。
関連リンク：
Microsoft Word - Apple - PI Brief - 8.17 CSM FINAL + emc.docx - epic-v-apple-8-17-20-768927327.pdf