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このドラゴンボールは海賊版だ、販売できないよ。バンダイが集英社作品のゲーム化で酷い目にあった…もとい勉強させて頂いた話、Unite Tokyo 2019レポート

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ゲームエンジンUnityの技術カンファレンス、Unite Tokyo 2019にて、技術と異なる一風変わった話があった。
バンダイと集英社の関係がどのように始まり、どのように変化したのか。
『ドラゴンボール』ゲーム化の話を中心に出版社サイドとゲーム会社サイド、それぞれの視点を語る……と言うより、苦労を重ねたバンダイ側に、当時の集英社側監修の責任者が真実を語るセッション『出版社とゲーム会社はなぜすれ違う?ドラゴンボールのゲーム化で酷い目にあった…もとい勉強させて頂いた話』である。
非常におもしろ……いや、ためになる話だったので、ここにレポートを残しておく。

セッションのスピーカーは4人。
『週刊少年ジャンプ』編集者として『ドラゴンボール』の担当し、Dr.マシリトという異名でも知られる鳥嶋和彦さん。
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バンダイナムコエンターテインメント取締役にして、『ドラゴンボール』や『NARUTO-ナルト-』などのキャラクターゲームに参画してきた内山大輔さん。
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そして、バンダイナムコホールディングスのIP戦略本部アドバイザー鵜之澤伸さん。
「Appleコンピューターと提携して286億円損した戦犯です」と語ると、会場からは笑い声が。
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司会として電ファミニコゲーマー編集長の平信一さん。
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セッションの最初は、バンダイと集英社の関係初期の話から始まった。
その昔、バンダイが『ドラゴンボール』のアニメのスポンサーになり、ファミコン版の『ドラゴンボール』の1本目は150万本ぐらい売れた。
当然ながら、2本目もやりたいという話になる。
しかし、集英社に広告代理店から「バンダイがスポンサードを降りようとしている」という話がやってきて、鳥嶋さんは「スポンサードの会社にしかマーチャンダイジングの権利はありませんから」と許諾しなかった。
すると、担当が青ざめて帰り、1週間後にアニメのスポンサーに戻り……そういったところから集英社とバンダイとの長い歴史が始まったそうだ。

さらに、平さんが「当時のバンダイのゲームは必ずしも出来のよろしくないゲームがあったところ、鵜之澤さんが立ち向かったと聞いていますけど?」と強めのボールを投げ込むと、鵜之澤さんそれを受けて当時のバンダイの状況を語ってくれた。

「なんでクソゲーできるの?」と聞いたところ、企画書を書いて発売日を決めたらその遵守が第一になり、完成させるために70%、80%の状態で出てしまうのがバンダイの状況だった。
そこに対して、鵜之澤さんは責任者として100点満点で出すことを決めたという。

また、当時の現場には「これをやってはいけない」というIPもの開発のノウハウが伝説として共有されていた。
それらは開発のための経験がルールにしたはずだが、時間とともにルールを制定した理由は忘れられ、多くのルールだけ残って守られている状況だったとのこと。
そこで、集英社の鳥嶋さんに確認してルールを破ることにOKをもらい、そういったタブーを破っていった(しかも、多くのルールについて権利元に確認すると「そんなこと言っていない」と言われたそうだ)。
そうこうしてゲーム産業が伸びて、鵜之澤さんは負債を返しきったという。

本題の前に場が温まったところで、いよいよ内山さんから『ドラゴンボール』のゲームが編集部とトラブルを起こした話が始まった。
当時、バンダイは連載が終了して時間がたつ『北斗の拳』のゲームでヒットを飛ばし、懐かしいゲームとして『ドラゴンボール』を作ったら売れるのではないかと考えて制作していた。
アニメをゲーム化するため権利元の東映アニメに話を通していたが、あるとき鳥嶋さんから呼び出しがあってプレゼンを要求され、ベータ版に対して「悪いけどさ、これ捨ててくれる?」と、プロジェクト破棄を求められてしまったというのだ。
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「今作っているドラゴンボールのゲームは、これでプロジェクト中止だから」
「全然キャラがわかってないよね、この企画」
などと語られ、内山さんは死にたいと思ったとか。
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これに対して、鳥嶋さんは「映像は原作と似ておらず、見てすぐダメだと感じた」ということを語った。。
原作と似ていなければ偽物であり、海賊版であると、鳥嶋さんからは厳しい認識が示される。
内山さんは3億円かかっていると説明したそうだが、原作者の鳥山さんの年収が2桁億円に達することを語り、「(開発費以上に収入がある人に)数億で偽物出して、と言えますか?」と諭し、「悪いけど、これ捨ててもらえますか?」と言ったそうだ。

これに加え、鳥嶋さんは『北斗の拳』のゲームがヒットしたところで、バンダイの態度が変わってきたとも感じていた。
その結果、キャラクターのつくり方とか、原作の読み込みが甘く見え、「ドラゴンボールはもうテレビもやってないし、漫画も終わっているキャラクターだから、バンダイが出してあげる視点」を感じたという。

バンダイは東映アニメに話を通していたが、鳥嶋さんからすると東映アニメは窓口でも、編集部と話さずに進めることはあり得ないという認識だった。
連載が終わったからといって、いい加減なものが出てはブランドが崩れてしまう。
しかも、発売がバンダイでも子供から見れば集英社に責任があるように見え、クレームは編集部にやってくる。
「このゲームはなんで似てないの?」と子供から電話がかかってくる。
だから、編集部と話さないものにOKは出せないとのこと。

結局、内山さんは3カ月かけてアニメーションやモデルなどを作り直すことを選択し、許可を得て発売にこぎつけることはできた。

▲セッション内では配慮があってか名前が出されなかったが、「特典が四星球だった」と語られていたため、該当ゲームが『ドラゴンボールZ』だったことは特定できる。これはそのプレイ動画。

この再開発版がOKをもらえた16年前、内山さんは開発と共にドラゴンボールに向き合った覚悟・真剣さのアウトプットを見てもらえたと思っていたそうだが……。
ここで、鳥嶋さんが衝撃の事実を語ってしまう。
ジャンプを支えるスポンサーは大事にしないといけなくて、8月発売のものが流れたら、次は11月末か12月末のクリスマス商戦か、ここには出させないわけにはいかない。
これはOKしようと思っていたので、変なものを出されたら困ると思っていた。
ドラゴンボールの完全版を集英社が出すことが決まっており、11月・12月に出すのは集英社としてバックアップできると読みとしてあったので受けた。
許可が出ることは決まっていたらしい。
とはいえ、結果的にゲームのクオリティが上がって『ドラゴンボール』のブランドは保たれ、ゲームはめちゃくちゃに売れ、めでたく終わったそうだ。

しかし、歴史は繰り返される。
内山さんがさらに資料をめくると、内山さんの後輩の代になり、時間がたったころにまた編集部とのコミュニケーションがすれ違いが発生したことが語られたのだ。
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結果、鳥嶋さんが怒り、バンダイ・バンプレストなど、グループすべての『ドラゴンボール』関連商品の監修が止まる大事件に。
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「君が作っているの、海賊版だから」と怒られ、その後に後輩も反省して立ち直ったという。
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ここでもまた「その話は私の認識と違う」と、鳥嶋さんが彼からみた真実を明らかする。
同じ時期でコナミの『遊戯王』カードを編集として経験したのち、コナミと比較してバンダイはカードが売れ続ける仕組みを作るのが下手という印象を受けていた。
このときはバンダイがゲーム会社のナムコと合併し、バンダイナムコになっていた。
だから、遊びの技術を持っているはずなので、グループとしてノウハウを投じ、ドラゴンボールのカードおよびカードダスのゲームを構築して欲しかったという考えが鳥嶋さんにはあったそうだ。
それをお願いしても通じないので、すべてのドラゴンボール関連の監修を止めたという。

時間がたつとねじが緩むこともある、という内山さんの認識だったが、本当の事情はビジネスの都合だったようだ。そして、バンダイナムコ側は全力で対応して再びピンチをしのいだ。
怪我の功名と言うか、このときのバンダイナムコ側担当が新たに原作通りのアニメを作ることを提案し、それを東映アニメのプロデューサーに話して『ドラゴンボール・改』のアニメ制作につながり、『ドラゴンボール』は子供に再び浸透して、もう1回カードが売れることになったとのこと。

▲ドラゴンボール・改。これはバンダイナムコと集英社の話し合いなしに出なかったかもしれない。

このようなことがあり、バンダイ側の気のゆるみ(?)がトラブルを生み、そのたびに勉強して挽回し、より関係性が深くなったという話がセッションでは語られ、最後は鳥嶋さんの言葉で締めくくられた。
僕は厳しいというのですけど、子供は厳しいです。
子供がなけなしの100円玉で小遣い払っていると知っていますから、いい加減に大人の都合でOKするわけにはいかない。
僕が言っているのではなく、後ろの何百万人と言う子供が言っていると思って言ってきました。
ブランドを保つということは大変なことで、編集部は全力で監修する。文化も違う。
それをゲーム開発会社側は勉強し、全力を出して付き合う必要がある。
それを垣間見られるセッションであった。

2019.09.27 15:00
一部の言葉の間違え、キャプションなどをわかりやすく修正しました。