物語を夢中で読み進めているうちに、あれよあれよと予想もつかない展開に突入し、最後には狐に包まれたような気持ちになり、その物語のことがしばらく頭から離れない……。
『影のまどろむ場所』は、そんな物語パズルゲームだ。表の世界と影の世界を行き来する奇妙なパズル体験でプレイヤーを引き込む。そして、何通りにも解釈できる不思議な物語をプレイヤーにぶつけてさっと姿を消す。
不思議系の『X-FILE』とか、理不尽な大人の童話とか。それに近い物語は好きなら、本作を気に入るはずだ。
この世には、目に見えている表の世界と、その裏に存在する影の世界が存在する。
この2つの世界は見えないし、決して交わることはないのだが……本作では、その2つの世界を行き来する能力を持つランタンを拾い、追われることになった男の姿が描かれる。
通常、こういった魔法のアイテムは持つ者を影の世界に連れていく。だが、このランタンの能力は異なる。
なんと、ランタンから投射される影で覆った場所を裏の世界と入れ替えてしまうのだ。
下の図の左手部分、壊れた橋に注目してほしい。
赤い柱の横をタッチすると、男がその位置まで移動する。
そして、赤い柱から投射される陰で壊れた橋を影で飲み込むと……。
ランタンの力により、影が触れた場所が裏の世界と入れ替わる。
そして、また影で飲み込めば、橋は壊れた状態に……つまり、表の世界の姿に戻る。
これがゲームの基本ルールで、ランタンを使って表と影の世界を入れ替え、画面に示されるひし形のゴールポイントに主人公が移動すると物語が進むステージ制のパズルとなっている。
▲あと、●があるブロックはプレイヤーがタッチで動かせる。
本作は、当然ながらパズルゲームとして楽しめる。
「どの場所を影で飲み込むか」を計算し、道を作っていく堅実なパズルとして楽しめる。
しかし、それ以上にゲーム演出と一体になった物語が素晴らしい。
男はランタンを手にしてからトラブルに見舞われ続け、何かから逃げ続ける。
何から逃げているのか、男が善なのか悪なのか、すべては説明されず、ゲームを通じてプレイヤーが想像し続ける作りとなっているのだ。
途中、男は影の世界の精霊（？）らしき何かにそそのかされたり、自らの意志で他人の命を絶つこともある。最近では見られないほど思い切りのよい演出に、驚かされた。
本作のゲームプレイは単なるパズルではなく、プレイヤーに「表と影の世界の違い」を常に意識させる物語の一部として機能しており、物語を邪魔せずに（それでいて多少は悩む）展開が続く。
パズルステージは「ゲームを遊ぶ」というより、「主人公が見る奇妙な世界を体感する」物語体験の一部だった。
そして、その物語が混沌としてくる頃にパズルも複雑さを増し、今見ている世界が表の世界なのか、影の世界なのか、プレイヤーにすらわからなくなっていく。
最初は「壊れた橋が直る」程度だった表と影の世界の差異も、より大胆なものになり、物語は終幕へ向かう。
▲雪のステージで落ちるなどバグは散見されたが、ゲーム自体は非常に良い。
物語については賛否両論が出そうだが、確たるストーリーが存在しない……理不尽で、謎に満ち、何通りにも解釈できる冒険に私はすごくもやもやしたものを感じ、その「解決しないもやもやについて考える」体験に満足した。
Appleが好むスタイリッシュなゲームに、暴力的で乱雑なものを塗りたくったような……小粒にまとまった物語にはない、投げっぱなしの魅力がある。他の人にも、是非これを体験して欲しいと思っている。
Appleが好むスタイリッシュなゲームに、暴力的で乱雑なものを塗りたくったような……小粒にまとまった物語にはない、投げっぱなしの魅力がある。他の人にも、是非これを体験して欲しいと思っている。
なお、Androidはデモ版へのリンクとなっているが、製品版が出たらお知らせするのでお楽しみに。
概要：
照らすことでステージの一部分だけ影の世界と光の世界を切り替えられるランタンを使い、ゴールへ行くパズル。光と影の演出を使った不可思議な物語が後を引く。
評価：8（かなり面白い）
おすすめポイント
影を使った印象的な演出のパズル 想像の余地が多く、理不尽な物語 パズルと物語が一体化したプレイ気になるポイント
バグが散見される（特に雪ステージ） 画面が小さいとプレイしづらいアプリDL：
影のまどろむ場所 (itunes 600円 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)
開発：Game Revenant （米国）
HP：http://www.whereshadowsslumber.com/
レビュー時バージョン:1.0.1
課金:なし
ライター：ゲームキャスト トシ
動画：
