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心を持つ美少女アンドロイドを開発した結果、AIが進化しすぎて悟りを開いてしまい、開発者にひたすら仏法を説いてしまう萌え(?)SF仏教ノベル『マーシフルガール』レビュー

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萌え×SFノベル×仏教。
辞典アプリ『法句経(ダンマパダ)』などの仏教アプリを手掛けるガチ仏教系開発者RhinocerosHornさんが送り出した最新作がこの『マーシフルガール』である。
とあるオタクが、特注の女子型アンドロイドに新型AIを搭載した結果、高度すぎるAIは瞬時に悟りを開いて人類に原始仏教の教えを説き始めた……。
理想の外見のアンドロイドが目の前にいるのに、説教され続けるなんて高度な説法プレイか!
と、イロモノ一直線と思いきや、遊び続けてみると仏教哲学書として楽しめて、意外にも感動できる部分もある物語だったりするからすごい。

本作の作者 RhinocerosHorn さんが女性を看板にした仏教系ゲームを出すのは、これで2度目になる。
過去作の『森の聖者』はセクシーな女性を前面に出していたが、微妙に煩悩を刺激しないデザインで、かつゲームも進めづらい難点を抱えていてブレイクしなかった。
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▲今はアップデートで進めやすくなったらしいが、当時プレイして面倒で途中でやめてしまった。

そして、3年以上の歳月を経てノベルアプリ『マーシフルガール』でリベンジになるのだが……今度は逆にオタクの煩悩を理解しすぎる絵柄が心配になる。
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作者さんが別方面の悟りを開いてしまったのか。とも心配したが、主人公の名前決定時の初期設定名は“さとる”でほっとした。
オタクに悟りを開かせようという、作者の変わらぬ気合いがここにある。
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ゲーム内容としてはほぼ一本道(選択肢はあるが、物語に大きな変化はない)のノベルで、舞台はアンドロイドが一般化した未来。
主人公はあるとき画期的なアルゴリズムを閃き、“心を持つアンドロイドAI”を完成させる。
そして、そのAIを「ぼくのドストライクに外見を作ってもらった」特注アンドロイド“アイ”にインストールするところからゲームが始まる。
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なお、「特注の外見で心を持つアンドロイドを作りたい」主人公は結構ヤバい奴で、取り乱すと幼児退行して叫びだすし……。
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若いアイドルを追っかけていて「世間ではぼくらをロリコンというが、ぼくの定義ではぼくはロリコンではない」と力説したりもする。
主張が激しく、こじらせすぎたオタク。
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弁護の余地があるとしたら、下の画に出てくるのが普通の娯楽用アンドロイドというところか。
まあ、特注の外見は許そう。
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▲これが家にあったら、夜は軽くホラー

で、主人公が心血注いで作ったアイの制作は成功を通り過ぎ、予想外の領域にたどり着いてしまう。
ビッグデータを元にして世界の在り方を把握し、悟りを開いてしまったのである。
人間に対して「あなたたち生命は……」と、ことあるごとに原始仏教をもとにした哲学の説教を始めるのだ。
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例えば、主人公がスカートの中を覗こうとしても……。
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笑顔で「可哀想な生き物…」と言われ、その後「生命のあるものは勘違いしています」と上から目線で説法が始まる。
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▲この笑顔、煽り力高すぎる……!

心を持ち、理想の外見を持つアンドロイドと生活できるはずが、仏の教えを説教され続ける主人公。その気持ちたるや、察するに余りある。
かと思いきや、主人公は主人公で「上から目線で話されるとむしろゾクゾクして良い」とか言い始めるので、幸せなようだ。
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こんな感じで始まるゲームなのだが、これがとても興味深く、面白い。
私は手塚治虫の漫画『ブッダ』で仏教の知識が止まっていたが、さすがにノベルとなるともう少しだけ深く説明されて、単に哲学ノベルとして興味深かった。
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▲着せ替えや髪型変更もできる。

哲学系物語は説教臭くなりすぎて読んでいられなかったり、主人公が人格改造されたかのように悟ってしまって胡散臭いことも多い。
しかし、本作に関しては「我が強すぎるオタク主人公」と「常に上から目線のアンドロイド」の組み合わせがうまく機能していて、モロに説教しているのにコミカルな哲学書として物語を読める。

ゲームの前半では「人間の幸せとは金、名誉、性的欲求!」とアイに教え込もうとする主人公が、アイに上から目線で説教され続ける。
それも単に説教するだけではなく、主人公が追いかけているアイドルを「あんなもの糞袋です」と外見から想像もつかない発言で切り捨てるなど、表現も面白い。
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それでいて、主人公はやっぱり我が強くてアイに説法を受けても「少し考え直す」程度。一部に激しい主張もあるが「こういう哲学なんだね」と読み流せる(宗教の本なので、多少は覚悟して読んでいるというのもある)。
そして、一通り説教が終わると今度はアイの説教が終わり、主人公の身の上話が始まる。marr-3

ここで突然に絵柄が変わって驚いてしまうが、この先は(宗教臭さはあるが)普通の親子のヒューマンドラマに変化する。
原始仏教の考え方を前半で学び、そのうえでドラマを見るという2重構造になっているのだ。
ここでも「本来、仏教と葬儀は関係ない」とか、「葬儀に金がかかりすぎる」とか、いくつかの主張はある。
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ただ、前半では「あなたたち生命は間違っています」と説教されるのに対して、後半のパートではプレイヤーの意見が尊重される。
「私は葬式に金を出す流儀ではない」と父が語っても、プレイヤーが大金を出すことを決めればそれは尊重されるし、決定すればまったく否定されない。

プレイの前半では、ひたすらに説教され続けるアプリを想像していたが、終わってみると思ったよりは押し付けすぎず、萌えをフックに仏教の哲学を少し学び、考えるきっかけを得るアプリとして楽しめていた。
そもそもゲームというより仏教哲学ノベルなので説教臭いとか、音楽の使い方が惜しいとか、気になる点はある。ただ、それ以上に興味深く読み進めることができるはずだ。
アプリは無料(中盤以降は広告を見ると物語を最後まで読める)なので、哲学系の本を読むつもりで試してみると良いだろう。

評価:6(面白い)

ゲーム概要
原始仏教の哲学を学び、考えるきっかけを作る短いノベル

おすすめポイント
ライトな哲学入門として楽しめる
30代後半あたりからはちょっとグッとくる物語

注意点
説教臭さはある
一部の主張は受け入れられない可能性も(とはいえ哲学書なのでそういうものではある)

アプリリンク:
マーシフルガール (itunes 無料 iPhone/iPad / Android)

開発:RhinocerosHorn (日本)
レビュー時バージョン:1.0.1
課金:広告削除(360円)
公式ページ:http://rhinoceros-horn.com/top/merciful_girl/
ライター:ゲームキャスト トシ

動画: