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ゲームの特権、それは選べること。たった1つの決定が物語を圧倒的に豊かにするアドベンチャー『どうして勇者様はそんなに弱いのですか?』

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「映画や小説のような、物語を追うだけの一本道ゲームに意味はあるのですか?」
ある。映画や小説と比べてゲームが絶対に勝っている点がある。それは、ゲームの世界にプレイヤーの意思が反映されることだ。どんな素晴らしい映画でも小説でも、視聴者・読者の意思で何かが変わることはあり得ない。

『どうして勇者様はそんなに弱いのですか?』は、そんなゲームの特性を見事に活かしたゲームである。本作は1本道のストーリーゲームで、プレイヤーが世界にもたらせる変化はシナリオの分岐もない小さな1つことだけだ。
しかし、小さな決定でもプレイヤーが選択でき、ゲーム世界に変化をもたらすことで物語をがはるかに豊かになることを示している。

本作は、魔王を倒すために戦う2人の物語だ。
勇者だけが使いこなすという“超必殺技”を見よう見まねで操る能力を持つ少年エインと、枯れ枝にも負けるほど弱い最弱の女勇者“枯れ枝の勇者”の出会いから始まり、魔王の打倒までが描かれる。
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道中ではエインがさまざまな超必殺技を使って道を切り開くが、ゲーム内容は一本道の物語である。途中で選択肢はあるものの、事前に正解は示されているし、違う選択肢を選んだからと言って物語が変わることはない。まさに一本道の映画のようなゲームだ。
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しかし、唯一プレイヤーには究極の決定を行うタイミングがあって、これを行ったときからゲームの主体はプレイヤーに移る。いままで画面の外から傍観者として見ていた冒険が、だんだんとプレイヤーの心のうちに入ってプレイヤーが主体の物語になるのだ。
それがわかるのは終盤になると思うが、それに気づいたときにはこの物語に共感して終わりに向かう手が止まらなくなっているだろう。

もちろん、究極の決定を行っても最後までプレイヤーを引っ張れなければその共感を呼び起こせない。だから、終盤までプレイヤーを誘導するまでの道筋も手抜かりがない。
まず、次々と謎が出てきて引き込まれる物語。魔王城のすぐ側に存在を許されている協会、そしてそこに住む人々……その謎を追っているうちにいつの間にか物語の核心に迫っていく流れは見事。
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また、そういったストーリーに関する興味を保ったままプレイさせる快適さも素晴らしい。
マップは2Dの見下ろし形で表示され、次のイベントが発生する場所には“!”マークでマーキングが行われるし、なんならヒント機能もある。
キャラクターの移動も超高速なので、マップの探索が面倒な作業に感じる前に目的のイベントを見つけられる。
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▲イベントが進行するポイントには“!”マークが(左)、ミニマップではイベントがある場所が赤く表示される(右)

物語を妨げる要素はほぼ取り払うことでプレイヤーの頭の中にストーリーを印象付け、将来に行うたった1回の決定を意味あるものにする。
それだけに割り切って作られた物語は見事だ。終盤になって「あの決定をしたから、こうなるのかな」とゲーム展開が読めるのだが、それでもその部分では感動を避けられないだろう。
ゲームのネタバレを避けるためにあいまいに紹介したが、『どうして勇者様はそんなに弱いのですか?』は、「プレイヤーが決定できる」すばらしさを教えてくれるゲームだ。
ただ1回の決定が1本道の物語をどれだけ豊かにするのか。本作を遊んで、ゲームの醍醐味を味わってほしい。

評価:7(要チェック)

おすすめポイント
読むうえで意味を持つプレイヤーの決定
3時間程度できれいに終わる物語

気になるポイント
主張しすぎるBGM

アプリDL:
どうして勇者様はそんなに弱いのですか? (itunes 無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)

開発:SYUPRO-DX(日本)
レビュー時バージョン:1.0
課金:なし

ライター:ゲームキャスト トシ

動画: