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『創世のエル ~英雄の夢の終わりに~』レビュー - 勇者よ、お前はこの腐りきった世界を救えるか!世界を救う意味を問う、王道RPGの先を描く1作

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われわれは、本当にゲーム世界を救うべきなのだろうか?
これまで多くの巨悪を倒してきた。竜王、バラモス、エクスデスにガノン……多くの戦いを経て、多くの世界を救ってきた。
しかし、本当に巨悪を倒した後の世界は幸せだったのだろうか?
なぜ、世界を救うべきだったのだろうか?
『創世のエル ~英雄の夢の終わりに~』で向き合うものは、われわれが無条件で救ってきた世界、そのものである。
RPG未経験者がやるべきゲームではない。しかし、もし君が多くのRPGを遊んできたなら、次にやるべきRPGは『創世のエル』だ。
『創世のエル』はスーパーファミコン時代を思い出す見た目の見下ろし型RPGである。
フィールドはFF方式、かと思えば街や塔の配置はドラクエ方式と、過去の名作のオマージュがふんだんに盛り込まれており、細部までレトロRPGへの愛であふれている。
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バトルはターン制を採用しており、システムについてはRPG経験者なら苦もなく入り込めるだろう。
だが、それでも本作は懐かしのRPGとはかけ離れた……まったくもって世界観のゲームとなっている。
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この世界では、どこからか現れた幻魔王ドラモスが世界に宣戦布告し、幻魔が世界中で人間を襲っている。ときを同じくして謎の死病が流行り始め、その脅威の前に人類は一致団結した。
いま、ドラモスを倒せるのは勇者ヒイロのみ。
世界中が勇者ヒイロを応援し、期待を持って見守っている……これが、本作の表層的なストーリーだ。
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『創世のエル』では、さらにその裏側まで描かれる。
表向き団結して勇者ヒイロを応援する国々は、裏ではドラモスが討伐後の世界で主導権を握るために争っている。
それを知る国民たちは「勇者が魔王を倒しても、世界は平和にならない」と、どこか諦めている……。
王道の美しい英雄物語と同時に、裏の物語も進行する二重構造のゲームが『創世のエル』なのだ。
そして、プレイヤーは華々しく活躍する勇者ではなく、ギャップに満ちた裏の世界を見る裏方としてゲームの世界を見ることになる。
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本作をプレイすると、わざとらしい設定に戸惑う。
というのも、本作に登場する国は実在の国をモデルにしており、その描き方があまりにも悪意に満ちたステレオタイプだからだ。
主人公の出身国は日本をモデルにした国ラポーニャは、弱腰で優柔不断な王が治めており、国民の意見も一致しない。
アメリカをモデルとした国エメリアは、強大な国力を持つが貧富の差は激しい。人権を重視しておりナヂャで虐げられている人々の救済を唱える。
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中国をモデルにした国、ナジャ。絶対的な権力を持つ主席が国内情報を操作し、貧困の責任をラポーニャになすりつけている。
ラポーニャ領土の領有権を主張しており、領土問題でもめている。
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あまりにもどこかで見たような世界。不毛なネット世界の縮図のようだ。
不毛な議論を交わす人々。保身と野心だけが目的の権力者。権力者の意見に踊らされる人々。抵抗を無駄と死って諦めきった人々。
現実がモデルだからこそ、その酷さはより身近に感じられる。 プレイヤーが見せられるのは、文字通りクソみたいな世界の様子ばかりである。

その混沌の中で、ゲームはプレイヤーに「選ぶこと」を強いる。
ネット上の論説をモデルにしているため「右翼思想ゲーム」と言われたり、福島の写真が出てくるために「反原発ゲーム」とか短絡的に言われることもあるが、決してそう言った思想を選ぶのではない。
実際、意見が鼻につくことはあってもプレイヤーが思想を強制されることはない。
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むしろ、プレイヤーと主人公の同一性こそが本作の重要なポイントである。
本作において、プレイヤーの考え方に関わることはすべて「はい」「いいえ」で選択でき、それが尊重されるのだ。
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▲その選択は細部にわたり、人間関係のことなども選ぶことになる。

「独裁政治で人を弾圧するのは悪いことだと思うよな?」と聞かれても、プレイヤーは「はい」「いいえ」どちらを選んでもいい。
物語上の展開は変わらないが、「はい」を選べば独裁者と積極的に戦ことになり、「いいえ」を選べば独裁を肯定しつつも人間関係の都合で独裁者と戦う主人公という構図になる。
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ゲームの前半部分こそネット論争の是非を問うような選択が続くが、後半になるほどに厳しい選択も増えていく。
クソみたいな世界で、どうしようもない2択を強いられ続け、ストレスはたまる。
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「こんなクソな世界は、滅んでしまうがいい……! 」
そうも思うことも1度や2度ではないだろう。
だが、意地の悪いことにこのゲームはプレイヤーに希望も提示してくる。
世界の7割ぐらいは権力争いや諦め、怠惰が支配するクソだが、2割は普通で、1割ぐらいは希望もあるのだ。

7割クソな世界を、1割しかない良い要素のために、命懸けで救うのか?
こんな世界なら滅ぼした方がいいのではないか?

終盤における『創世のエル』は、そんな邪悪な誘惑に満ちており、プレイヤーだってその気になれば最終的に世界を滅ぼす“選択”もできる。
プレイヤーに厳しい選択をつき続け続けるゲームであった。

実際、私は最後まで世界の閉塞感に参っていた。
まともなことを言っているように見えて危険思想な奴らもいるし、善良でも愚かな人間もいるし、世界に希望があまりに少ない。
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だが、ゲーム終盤では世界を救う理由ばかり探していた。クソだろうが世界を見捨てることはできなかったのだ。
最終的に、「自分が少し共感できる人もいるから」と、わずかな好きな登場人物のために世界を救った。
我がことながら、エンディングを見ながら「自分は思ったよりも善人だったのかも」と笑えてきてしまった。

UIのまずさ(Twitterボタンは押し易すぎる)や、バトルの単調さは気になる物の、本作は夢中になって遊べるRPGだ。
序盤は過ぎるほどの社会風刺でうんざりし、中盤は危うすぎるシナリオの決着をどこに落ち着けるか気になってやめられなくなり、最後に感動で終わらせる。
とても暴力的な描写があり、下品な描写があり、絶望ばかりを描いている本作だが、本作は逆説的に「生きる理由」に目を向けさせ、プレイヤーに選ばせる希望に満ちたゲームであった。
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クリア後、本作で『女神転生外伝 新約ラストバイブルIII』で使われなかったシナリオを利用したことが示唆されるが、『女神転生』が「カオスとロウ」の生き方を選ぶゲームだったことを考えると、こういった作りにも納得がいく。
一方で『新約ラストバイブル』を知らないと解けない部分があり、その点には不満は残った。
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▲新約・ラストバイブルIの前日譚ともとれる。女神転生成分は低いので期待しすぎは禁物。

このゲームは誰もがほめたたえるゲームではない。
ストーリーラインに賛否両論でるだろうし、演出の強烈さに拒否反応を示すプレイヤーもいるだろう。ただ、100人いれば20人の心には強烈に刺さる。
王道RPGを誰もが遊んだことがある現代で、特定の人に刺さる最新のインディーRPGである。
そのとがり具合は無料体験部分(ゲームの半分は体験できる)で見られるので、合わなければやめられる。
王道RPGを幾度となく遊んできたプレイヤーが最大限に楽しめる作りなので、RPGを遊んできたなら試して欲しい。
きっと、先が気になって続けてしまうはずだ。

ただ、もしあなたに世界を救った経験がないなら……先にいくつかの世界を救って出直してくるべきだ。
幸い、現代ではスマホがあれば手元いくつも世界が救える。

評価:9(かなり面白い)

課金について
840円(フルシナリオ)

おすすめポイント
危ういバランスで先が気になるストーリー
主人公=プレイヤーの徹底
迷うことのない親切なナビ
終盤の絶望的で印象的なボスバトル

気になるポイント
Twitterボタンが誤爆する
暴力的な描写、社会風刺が人を選ぶ
平坦で探索しがいのないダンジョン
終盤で新約ラストバイブルを知らないと理解しがたい点かいがある

(バージョン1.0.18、ゲームキャストトシ)

アプリリンク:
創世のエル ~英雄の夢の終わりに~ (itunes 体験無料)

動画: