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ベクタースキャンにこだわる!『VECTROS』(ベクトロス)の潔さに涙する:iPhoneゲーマーな日々43

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ベクター描画という技術がある。
点から点に線を描く方法で、直線・曲線を描くのに適していて、図形描画が得意。
細かく変化する不規則な線やイラスト的な線を描くのは苦手。
ただ、2点のデータがあれば線が描け、通常の画像データと比べて必要なデータが圧倒的に少なくてすむ利点があった。

その理屈で専用モニターの中で擬似的にペンを走らせてグラフィックを表現するのがベクタースキャン。
昔はドット絵と比べてなめらかな線が描けるという利点があったものの、高精細なラスタースキャンモニターが出現すると廃れ、ゲームに関して今日では自分の知る限りでは残っていない。

しかし、そんなベクタースキャンゲーが、そのまま発展していたら…?というコンセプトの新作を、iPhoneで作る男たちがいた。
今日紹介する『ベクトロス』はベクターゲーの記憶を持つおっさん達に向けられた、酔狂極まりないゲームらしい。
Vector Scanゲームの最新作を作りたい、それがVECTROS(ベクトロス)の開発コンセプトです。
ラスタースキャンのゲーム機が主流となり、やがてポリゴンが登場し、廃れていったベクターゲーム。
このロストテクノロジー化しつつあったベクターゲームが、ベクターのまま進化していたら? をテーマに企画を進めVECTROSを開発しました。

(公式サイトより)

おっし、どんなものか見てやろうじゃないか、と言うことで早速ポチリ。
タイトルロゴはベクタースキャンじゃないけども、文字にベクターっぽいにじみ。
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スタートすると発進シーンから。
おおお!
すごい線の数(※昔のハードはこんなに線が出せなかった)。
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ベクタースキャンは塗りつぶしできないので戦闘機だろうが建物だろうが線だけ。
透過する必要はないのだろうけども、ワイヤーフレーム的な魅力を出したかったのだろう。
メカニカルというかサイバーな雰囲気が魅力。
ベクタースキャン的な温かい線の表現がないけれども、まあベクター描画ってことで許す。
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で、過去のシューティングをリスペクトしている感じの出撃シーン。
おっさんの脳を刺激しまくりでもうたまらぬ。
おお、出撃だけで3枚も画像を使ってしまった…。
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ゲームは傾け操作で移動し、ボタンで射撃する3Dシューティング。
敵の基地を、たった1機で破壊しに行くのはシューティングのお約束。
巨大な要塞に突っ込んでいくさまはスターウォーズでデススターに一機で乗り込むシーンを思い出す。
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攻撃方法は全方にショットを打つ“ブラスター”と、強力だけども弾数制限がある“ホーミングショット”の2つ。
今時、オートショットがないというのが気になるけども、プレイしてみるとやっぱり昔のシューティング感は自分でボタンを押さないと出ないんだな。
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パワーアップアイテムを拡大すると、文字がベクター描画で書いてある。
芸が細かいよ!
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強敵が出る前のWARNING演出はダライアスっぽい。
この辺りは音楽に元ZUNTATAのOGR氏を迎えているからか。
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ボス戦。
ワイヤーフレーム的な演出…というよりもベクタースキャン的な飛び散り方にこだわっているので、ちょっと派手さが薄い。
…たぶん、派手にしようとすると方法はいくつもあると思うのだけど、記憶の中にあるベクターを再現しているからこれでいいのだろう。
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さらに先に進んでいくと、高速でシャッターを避けるシューティングお約束ステージ。
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大きめの敵が出てくるシーン。
などなど、昔のシューティングを色々プレイした上で作っているのが伝わってくる。
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ゲームとしては、見た目がかっこよくて、だれでも簡単に爽快感が得られるのではなく、敵の出現パターンを覚えて全部撃破していくと気持ちよくなれる昔ながらのタイプのゲーム。
ゲームの見た目だけでなくて、プレイの文法も少し昔のアーケード3Dシューティングぐらいに調整してある。

残念なのはワイヤーフレーム演出にこだわったがゆえのわかりづらさ。
壁の裏・敵の裏など本来見えないでいいものまで見えてしまうので、敵や弾が入り乱れると画面が賑やかすぎて、慣れないと遠近感がわからなくなってくる。
また、自機の移動に合わせてブラスターの射角が変わるのだが、自機自体が見づらいのでそののロジックを理解しづらい。
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とはいえ、このゲームを見てプレイしたいと思う人間ならばその辺りは問題なくクリアしているという判断だろう。
完全にオールドゲーマー向け。
スマホで増えたという新規ユーザーの方向なんて全然見ていない潔さ。

スナック菓子のように誰でもインスタントに楽しめる「スナックアプリ」と呼ばれるゲームや、ソーシャル系ばかりの時代に「僕らはこんなゲームが作りたいし面白いと思っているんだよ!」というのを作ってきたnenetさんに乾杯。

たとえ利益が出なくて続かなくても、俺はこのゲームを忘れない…。

ベクター、線だけ、ワイヤーフレームってのはいいと思うけども、やっぱり太い線もあってこそのベクタースキャン。
欲を言えば、ベクタースキャンならではの線の強弱を使った表現が欲しかったけども、ゲーム内容が見た目以上に懐古ゲーしていたので、十二分に満足。

でも、できれば続いて欲しいのでこの記事を書いてみた。
公式のメッセージと動画を見て気になった人は即チェック。
アーケードの擬似3Dシューティング系、例えば『ナイトストライカー』などにハマったおっさんなら後悔しないはず。


で、最後にこのベクタースキャンという技術が今どうなっているかというと…。
知るかぎりではベクタースキャンのゲームはなくなってしまっている(モニターの中でペンを走らせるハードウェアが必要だから、専用モニターがなければベクタースキャンは存在し得ない)し、おそらくほとんど無いはず。

けども、ベクタースキャンの基礎理論とも言えるベクター描画はゲームでも生きている。
頂点データがあれば画像が作れる=メモリが少なくてもいい=携帯の通信速度でも画像が送受信できる、ということでFlashゲーム、ソーシャルゲームなどのグラフィックに使われていたりする。
技術ってのは、意外にしぶとい。

って、この文章を書いているときに公式サイトでiPad2位になったという報告が。
オールドゲーマーの購買力も、意外にしぶといのかも。


アプリリンク:
ベクトロス(itunes) iPhone/iPadの両方に対応