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”古き良き”ではなく、現代に通じる良質RPG『FΛNTΛSIΛN(ファンタジアン)』前編レビュー。『FF』の父が作る懐かしのゲームを超え、Mistwalkerだから作れた新作と言えるAppleのキラーソフト

FΛNTΛSIΛN (ファンタジアン) (App Store Apple Arcade)
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『ファイナルファンタジー』シリーズを立ち上げた坂口博信さんが、Apple の月額遊び放題のゲームサービス Apple Arcade 向けに『FΛNTΛSIΛN(ファンタジアン)』という RPG を作る。
これを聞いたとき、「ああ、懐かしいテイストの RPG が遊べるのだろうな」程度に思っていたが……出てきたものは、そんな大人しいものではなかった。
懐かしさの皮をかぶった最新の JRPG で、スマホでも Mac でも同じように楽しめる工夫が随所に盛り込まれており、まさにゲーム機とスマホ、両方で長い開発経験を積み、ヒットを生み出した Mistwalker だからこそ作れる新作と言っていい。
失礼ながら予想をはるかに超えて面白い、まさに Apple Arcade キラーソフトだった。

Apple Arcade のキラーソフトとして『ファンタジアン』が発表されたときから、ジオラマを製作して 3D スキャンし、ゲーム内に取り込む手法で作られることが喧伝されていた。
あまりに話題にするので「それほど話題にするべきものなのか?」と思ってしまうときもあったが、実際目にしてみると、それは素晴らしかった。
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高性能ハードで実現されるフォトリアルの世界とはまた異なる、現実と非現実の狭間にある独特の存在感。
精巧な人形セットの家とか、おもちゃのセットを見ているようなワクワクを提供している。
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同時に、このジオラマのフィールドは歩き回って楽しい場所でもある。昔懐かしの隠しアイテム探しの要素も、ジオラマセットのマップ内に大量に埋め込まれているのだ。
例えば、下のフィールド画面では主人公のいる石垣の左側に、木で隠れて見えない場所がある。そこに「何かありそうだな」と近づくと……。
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カメラが切り替わり、木陰に宝箱が隠されていたことがわかる。
ジオラマを眺めるように歩き回ると、そこに何かある、「見て楽しい、歩いて発見がある」フィールドとなっている。
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そんなジオラマフィールドがゲーム内にこれでもかと用意されており、進むたびに新たな風景を探索できる。
これは、ゲームを先へ進める強烈な報酬として機能している。
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物語に目を向けると、少年を主人公として仲間が集い、旅を通じて世界の謎にせまり、危機を救う王道ストーリーが展開する。
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ほどよく引きがあり、キャラクターたちには好感が持てるし、気持ちよく楽しく見られる。
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▲飛空艇を操縦する男から『孤独のグルメ』まで、さまざまなネタも盛り込まれていたりする。

また、回想シーンではテキストとイラストで短く濃く物語が展開し、シーンに応じて音楽も文字の見せ方も変化する演出があり、良いアクセントとなっている。
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バトルは最大3人パーティーで臨む、ターン制のコマンドバトルを採用。
通常攻撃は無条件に使用できて、各キャラクターの特殊能力を発揮するスキルの使用にMPを消費し、敵のHPが0になるまで戦えば勝利となるお馴染みのものだ。
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だが、攻撃の軌道を調節して敵を狙い撃つ独自のエイミングシステムが上手く機能し、お馴染みのバトルを退屈から解放している。
エイミングシステムとは、プレイヤーがドラッグ操作で攻撃の軌道を切り替え、直線を射貫いて敵を巻き込んだり、曲射で隙間を縫うようにターゲットを狙い撃ったりして攻撃対象を変更する仕組みだ。
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これはバトルにプレイヤーの工夫の余地を盛り込むだけでなく、プレイ感の変化にも繋がっている。
本作の敵はかなり倒しやすく設定されていて、エイミングで攻撃を集中するとサクサク敵が倒れていき、狙って敵を倒すカジュアルシューティングのようなプレイ感が得られる。
一方、ボスとのバトルではエイミングの精度によって少し難易度が変化することもあり、緊張感をもたらしている。
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物語も探索も、バトルも安定。だが、それだけであれば「懐かしのRPG」で終わる。
『ファンタジアン』を特別にしているのは、雑魚敵とのバトルを後回しにして、好きなときにまとめて戦える “ディメンジョンシステム”の存在だ。
プレイヤーはジオラマのフィールドを探索したいとき、ディメンジョンシステムによって敵と遭遇しても後回しにして探索に集中でき、ストレスなく探索を楽しめる。
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▲見るのが楽しいRPGなので、見るときはそれに集中したい。

一方、ディメンジョン空間でまとめて敵と戦うときは、バトルが大勢の敵をエイミングでいっきに葬り去る爽快なミニゲームへと変化する。
ディメンジョンではプレイヤー側を補助するアイテムも同時に登場するため、大量の敵をエイミングで一気に倒してより爽快に、より楽しくバトルを楽しめるのだ。
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ディメンジョンシステムによってプレイヤーは今体験したい遊びに集中でき、探索とバトルにメリハリがつく。すると、物語にも集中できる。
「戦いたいときだけ雑魚と戦える」だけなのに、それがゲーム全体の体験を向上させている。
『ファンタジアン』は、マップ探索・王道物語・バトルを3本柱をディメンジョンシステムでまとめ上げたハイレベルな RPG だ。

そしてもう1つ、どこから見ても考え抜かれた Apple Arcade のキラータイトルという側面もある。
「あの頃の懐かしいRPGを再び」というスローガンは良く聞かれるし、本作についてもそこは期待されているところだろう。
だが実際のところ、現代に昔の RPG をそのまま再現されてもそのまま楽しめないことが多い。

「あの頃」は人によって異なるが、グラフィックで言えば、『ファイナルファンタジー』にしろ、『ドラゴンクエスト』にしろ、懐かしのRPGもプレイした当時は先端に属していたもので、見ていてワクワクさせられたものだ。
だから、ビジュアルを安く仕上げて「懐かしの RPG ですよ」と言われても、ぱっとしない。
『ファンタジアン』では、ここにジオラマグラフィックを持ってくることでビジュアルに驚きをもたらしている。
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▲ビジュアルは現代水準にないと辛い。『オクトパストラベラー』も『ファンタジアン』も基準を満たしている。

同時に、Mac から iPhone までを網羅する Apple Arcade の枠組みでもジオラマグラフィックは最高のパフォーマンスを発揮する。
スマホの性能で写実的な描写をすると、最新PCなどに比べて見劣りする。
しかし、おもちゃ感を感じるジオラマだとそれを感じない。それどころか解像度が足りずに細部がぼやけていても、味として感じられることもある。
一方、Mac では最高 4K 高解像度で細部まで質感が見て取れ、Apple Arcade の全対応ハードで良い映像を楽しめるキラータイトルというわけだ。
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バトルで使用されるエイミングシステムも戦術を考慮しただけの機能ではなく、プレイヤーの感覚を補う重要な役割を担っている。
コントローラーでは物理ボタンの押し込み反応があるから、ただ戦うコマンドを入力していても操作した満足感がある。しかし、タッチ操作ではそれがないから物足りない。
これが懐かしのRPGを移植したときに感じる不満の1つだが、エイミングシステムがあるとグニグニと射線を動かす操作感が加わり、物理ボタンがない部分の手触りを補える。
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探索時に怪しい場所でフィールドが切り替わる技法も PS 時代によく使われた演出だが、当時より洗練された作りだし、ゲームのテンポも近代的な早いものになっている。
挙げればきりがないが、Apple Arcade のキラーソフトとしての配慮、タッチパネル操作で最大限に楽しめる工夫、古い遊びを現代でも違和感なく取り入れる調整、最新ゲームのようなテンポ感……表面上はあの頃のRPGでも、中身は細かい工夫が絶妙なバランス感で作られている。

最初にも書いたが、コンシューマー機で長くRPGを開発した坂口博信さんが率いて、スマートフォンで『テラバトル』などを経て開発経験を積んだ Mistwalker だからこそ作れた作品で、プレイしていて感心するばかりだった。

さらに、ゲーム演出やシステムだけでなく、Apple Arcade の枠組みの欠点にも『ファンタジアン』は一定の解を示している。
本作は4月2日時点で前半部分のみのリリースで、後半は2021年内配信予定となっている。
これは、Apple Arcade でたまに見られるケースで、定額サービスに継続加入してもらうための施策であろうと想像される。
だが、買い切りゲームでは前後半にわけて間を開けて配信すると、前半だけ遊んだ人間はゲーム内容を忘れ、楽しさが減ってしまう問題が発生する。

たとえば、迷路のような島を探索するアクション『Shantae and the Seven Siren‪s』ではリリース半年後に後半が配信されたとき、全体マップを覚えていないことに苦労した。
2020年9月には『ワールドエンドクラブ』を前半が配信され、2021年5月27日には完全版が Switch に登場する(通例、Apple Arcade 版はゲーム機版発売と同時に完全版になるので、おそらくスマホでも遊べる)。
だが、本作は多彩なキャラクターたちの会話と交流し、謎のある物語を特徴としているため、物語を詳しく記憶していなければ100%楽しみ切れない。
そして、半年前に遊んだゲームを細部まで記憶しているプレイヤーはあまりいないだろう。
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▲広いマップが用意されている『シャンティ』。半年もすると行き忘れた場所など忘れてしまう。

が、『ファンタジアン』のシステムは明快で、ストーリーもシンプルで、おそらく半年たっても重要な部分を忘れることはないと想像できる。
また、ストーリーに関しては見返しができるので、補完も簡単だ。
その上で、前半終了直前にはシンプルなシステムが少しずつ複雑化して足されていくことを予告し、「後半はもっともっと面白くなりそうだ、待とうかな」という前向きな気持ちで終われる。
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▲スキルツリーシステムが終盤になって突然登場するが、スキルはほぼとれないので覚えておく必要はない。

『ファンタジアン』は、現代の舌の肥えたゲーマーにも「懐かしの面白さ」を届けることに成功し、同時にタッチパネル操作でも面白さを損ねない(ただ、スマホだとさすがにバーチャルスティックも欲しいが)偉業を成し遂げている。
終わり方も含めて Apple Arcade の過去作で問題になった点を解消しており、Apple Arcade のキラーソフトにふさわしい仕上がりだ。

スマートフォンを選ぶ時、iPhone には Steam 移植ゲームや独自買い切りゲームが多く、Android には先行βテストや同人系ゲームが多いという特徴があり、悩みの種になっていた。
そこに、今後は Apple Arcade が遊べるかどうか、もまたゲーマーにとって悩ましい要素として加わることになるだろう。
『ファンタジアン』には、それを言わせるだけの可能性を感じる。

プレイ動画:


概要:
ジオラマの風景を見て楽しめる王道シナリオRPG。バトル、物語、探索が高水準でまとまっている。

評価:8(かなり面白い) ※前半部分のみ

おすすめポイント
ジオラマの風景探索が楽しい
雑魚は爽快、ボスは結構悩むバトルバランス
内容に合わせた音楽、イラストとテキストで語られる回想シーン
ただ触ってるだけで気持ちいいエイミングシステム
SFCを思い出す少し強引なシナリオ(人によってはここは古さを感じるかもしれない

気になるポイント
序盤は少し退屈
スマホ画面だとバーチャルスティックが欲しくなる

アプリリンク:
FΛNTΛSIΛN (ファンタジアン) (App Store Apple Arcade)

開発:Mistwalker(日本)
販売:Apple(米国)
HP:https://www.mistwalkercorp.com/?lang=ja
レビュー時バージョン:1.0.3
課金:なし

ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中