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そのゲームは、ガラケー世代の記憶を揺さぶる。LINE、WEB、アプリなど日常ツールが連動する謎解きゲーム『ガラパゴスの微振動』レビュー

ガラパゴスの微振動 (App Store 無料 / GooglePlay 無料)
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これはまた、面白くも特別なゲームの物語に出会った。
日本で発達して2012年頃まで主流だった携帯電話フィーチャーフォン、いわゆるガラケーを使って謎を解くゲーム『ガラパゴスの微振動』に、心を揺さぶられてしまった。
このゲームのことを早く人に伝えたい。
なんせ、このゲームは2021年3月31日をもって販売終了(購入すれば、販売終了後もプレイは可能)になってしまうのだ。
学生時代にガラケーに親しんだ20代後半~30代後半世代には刺さる良さがあると思うので、買うか、買わないか、該当する方はお時間を割いてこの記事を呼んでいただければ幸いだ。

本作を遊ぶためには、専用に作られたゲームキットという書類一式が必要となる(今回、これが在庫枯渇により販売終了となる)。
近年流行のシナリオを購入して遊ぶゲームが増えているが、それと同じようにシナリオを買ってアプリで遊ぶゲームとか、リアル脱出ゲームのような感覚で買うゲーム、と思ってもらえれば良いだろう。
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ゲームキットを購入すると自宅に書類一式が届き、その情報を元に AR を利用した専用アプリ『ガラパゴスの微振動』、さらには LINE や WEB サイトなどの身近なツールが連動する仕組みだ。
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それでは、ゲームの説明に入って行こう。
本作の舞台はプレイヤーのいる現代。
あなたは、些細なきっかけで人生の判断を誤った“誰か”の過去を変え、更生させる“過去編纂”プログラムを実施するメンバーに選ばれる。
今回編纂するのは2005年、高校生活最後の文化祭に心残りを持つ磯部少年の過去だ。

あなたが干渉できる期間は文化祭前の7日間、しかも、干渉できる場所は磯部少年の携帯電話のみ。
大勢に影響を与えてしまうと問題が発生するため、最小限の干渉で磯部少年の行動を変え、ポジティブな未来へと導かなければならない、というのがゲームの粗筋になる。
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ゲームは1プレイ7日間で、現実時間と連動して進行する。
現実時間で1日目の12時なら、過去の磯部も文化祭7日前の12時を過ごしている。
毎日その時間にやるべきミッションが LINE を通じて指示され、専用アプリで磯部や学校の様子を確認し、過去編纂に成功すれば翌日へ進み、失敗したらまた同じ1日をやり直す。
毎日謎が送られてきて、それが7日間続いて物語が完結するアドベンチャーになっているわけだ。

ただ、本作は単にアプリで完結する現実連動型アドベンチャーよりも、ゲーム世界の実在感が高い。
自宅にゲームキットが届き、それを開封し、限定サイトにアクセスするワクワク感は格別。

さらに、そこには2021年現在の磯部少年のWEBサイトが用意されており、彼が存在するものとして描かれている。
郵送で届く書類、パソコンや携帯からどこでもアクセスできる登場人物のウェブページ。
そういった小道具によって、ゲームの“実在感”がグッと増している。

準備が終わってアプリで過去にアクセスしてみると、次は2005年の解像度に驚く。
本作では、専用アプリ『ガラパゴスの微振動』から磯部少年のガラケー(2005年はスマートフォンが普及してない)をハッキングして2005年の様子を見るようになっている。
2005年といえば、郵政が民営化され、『野ブタ。をプロデュース』のドラマがヒットしていた頃。
そんななか磯部少年は、教室の片隅でひとりホムペを更新し、「おれが好んでいる音楽やマンガを理解できる人間は、このクラスにいない。」と孤立するオタク少年だ。
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彼を文化祭の主役に導くのがプレイヤーの目的だが、どんな少年なのかと調べてみると、まあ見事に当時のオタク少年の「あるある」が表現されている。
磯部少年はガラケーのプロフィールページを持っており、その名は“マコトの存在理由”。マコトは磯部少年の本名だが、高校生ぐらいのオタクはつけてしまいがち。
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そこに存在する日記ページが“マコトの散文”で、写真ページが“マコトの四季”。
ああ……昔の記憶が刺激される!

アプリ『ガラパゴスの微振動』には、教室やマコトの部屋を見る(干渉はできない)機能がそなわっており、この機能を使って情報を得て謎を解く作りだが、その中にも2005年間は散りばめられている。
謎解きのヒントに混じり、学生たちが「オレンジレンジの新曲聴いた?」とか、「バンプいいよな!」みたいな会話をしていて、もうたまらない。
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遊んでいるだけで、自分自身の学生時代を思い出す。
ついでに、筆者のホムペの名が“○○の世界”だったことも思い出してしまって身もだえしてしまう。
そんな懐かしくもリアルな世界がそこにある。

そして、肝心のゲーム部分にも意外な体験が待っていた。
本作は、2005年当時の磯部少年の携帯電話、つまりはガラケーをハッキングしてメールを覗いたり、勝手に電話を送ったりして過去に干渉するアドベンチャーなのだが……12年前はガラケーを使いこなしていたはずの私が、ガラケーを操作できないのだ!
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パネルをタッチして操作しようとしてしまうところから始まり、ガラケー独自の文化や操作、当時特有の電波事情(メールが自動で届かないことなど日常茶飯事だった)を忘れていて謎解きに失敗する。
すでに、ガラケーを操作方法自体が謎。
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▲センター問い合わせ。存在すら忘れていた。

で、なんとか操作を思い出して過去を編纂していくと磯部少年や学校の様子が再生されて「ああ、こんなことあったな」と懐かしくなる。
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そういったことが7日間続き、物語が動いてゲームは終了し、ゲームは満足のうちに終わった。

正直に言えば、プレイ初日は不満点が多かった。
謎解きも簡単だし、キャラクターのボイスアクトが素人っぽいし、AR で学校をのぞき込む要素は面倒なだけであまり効果的と言えなかった。
だが、進むほどに難易度はほどよくなってくるし、ボイスアクトも学生時代の気持ちを思い出す過程で自然な味と受け入れられるようになっていた。
声に関しては、自然な学生時代を思い起こすなら素人っぽい方がいい、とまで思えていた。

ガラケーの操作を思い出すことでプレイヤー自身が当時の自分を思い出し、同時に磯部少年の生活を映すことで、プレイヤーの心を過去に学生時代のテンションへ引き戻す。
最後はヒロインの歌でちょっとホロリときて(素人声優でもあるヒロインの声、そのままが歌で挿入されるのがまた良い)終わり、磯部少年の過去と現在は書き換わる。
同時に、学生時代の若々しい気持ちが呼び起こされ、今を書き換えようとする気力が蘇った気がする。

私にとって『ガラパゴスの微振動』は、ゲームプレイとストーリーの連動で記憶を揺さぶり、心を若返らせる装置として機能していた。
学生時代の気持ち、というのは人によって違うものだろうし、このゲームは100人が100人同じように面白い(鬱々とした学生時代に共感できない人だっているだろう)体験になると保証はできない。
だが、学生のころと違って、このゲームのターゲットとなる30代の方にとってゲームキットの2,980円(税抜)は、すでに安いもののはずだ。
ゲーム紹介を見て気になったら、販売終了前に購入を検討してみるのはいかがだろうか。

PV動画:


概要:
2005年の学生の携帯電話をハッキングして行動を変える謎解きゲーム。LINEやWEBページ、アプリなどが連動し、アプリの外も含めた謎解きが展開される。

評価:7(要チェック)

おすすめポイント
ガラケーを操作すること自体がすでにパズル
プレイヤーの学生時代の記憶を思い起こさせる物語とゲームプレイ

気になるポイント
ガラケー世代でないと共感度が低いかもしれない
iOSはアプリが止まる(再起動で最後まで遊べる)不具合あり
AR要素はあまり効果的ではない

アプリリンク:
ガラパゴスの微振動 (App Store 無料 / GooglePlay 無料)

開発:ENDROLL(日本)
HP:https://world-based-game.com/butterfly-rescue/
レビュー時バージョン:1.0.7
課金:なし(ただし、プレイにゲームキットが必要)

ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
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