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Appleのゲーム定額サービスApple Arcade、伸び悩んで方針転換か。一部ゲームの開発を停止との報道

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Appleは、自社の定額ゲームサービスApple Arcadeの戦略見直しを行っているようだ。
Bloombergの報道によると、Apple Arcadeの加入者を増やすための再編を行っているという。
報道によれば、クリエイティブプロデューサーが一部の開発者に、開発中のゲームは“エンゲージメント”が足りていないと伝え、開発を停止したとのこと。
エンゲージメントとは、おそらくプレイヤーを継続的にApple Arcadeに契約させ続ける力、と思われる。
Apple Arcadeはユニークな体験と有料ゲームの復活を掲げて立ち上げられた月額式のゲームサービスで、月600円で配信されているゲームが遊び放題となるもの。
大々的に発表されたが、それがうまくいっていないのだろう。

一般的に、Apple Arcadeのような定額ゲームサービスでは、プレイヤーが遊び続けられるだけのゲームを提供しなければ契約を打ち切られてしまう。
そうなると困るからプレイを続けてもらえるように遊びを提供し続けるのだが、大まかに言ってこれには2つの成功モデルがある。

1つは、ステージクリア型のパズルや脱出ゲーム・捜し物ゲームのようにステージを追加しやすい構造のゲームを作り、延々と似たようなカジュアルゲームを遊び続けてもらう方向性。
これはBigfish Gamesなどが展開して成功している。
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もう1つは、他所でも配信している旧作で数をそろえる方向性。少数の独占フラグシップタイトルなど目玉作品を伴うことも多い。
これは、Xbox Game PassやPS NOWなどが相当し、どちらも成果を上げていると言えるだろう。
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ところがApple Arcadeは、そのどちらの成功モデルも踏襲しない新しいサービスでだった。
配信されるのは旧作ではなく、App Storeが世界初配信となる新作インディーゲーム。
一方でフラグシップと言えるタイトルはない。
しかも、各タイトルのプレイに継続性はなくて多くのゲームは数時間でプレイして終わりになる。
外から見ると「これは新しいチャレンジだ」とは思えたが、加入者の伸び悩みがあったのだろう。

これは私からすると当然の結果に思える。
そもそも、Apple Arcadeは宣伝がまったく足りていないし、やり方も悪い。
Appleは自社サービスが素晴らしいことを宣伝しているが、ゲームの宣伝が全然ない。
かつて任天堂の社長だった山内さんが「ハードというのはどうしても遊びたいソフトを遊ぶために、しかたなく買ってもらう箱なんだ」と語っていたが、プレイヤーは遊びたいゲームがあるからそのサービスに加入する。

新作のマリオやゼルダの伝説がTVCMしているのを見て、「Switch買うしかない」と買ってしまうように、特定のゲームをやりたいからApple Arcadeに加入するのだ。
ところが、Apple Arcadeはゲームが出る前に期待をあおることもしないし、毎月登場するゲームのスケジュール告知もない。
出るゲームがわからないし、面白さを宣伝しないから、Apple Arcadeに加入したいとも思えない。

▲ゲームを面白そうに見せて欲しい。Apple Arcadeチャンネルでも作って、Apple Arcade Directでもやって、どんどん宣伝していくべきだろう。

先日も『Beyond a Steel Sky』や『リトルオルフェウス』という面白いゲームが登場した(どちらもPCで買うなら2,000円以上のインディーゲームになるだろう)が、このゲームの内容を事前にPRしないのだから、Apple Arcade加入者でなければ遊ぶ気にもなれない。
Appleは新鮮なゲームが毎月提供される新しいモデルを選んだ。ならば、ゲームが毎月提供される楽しさを演出するべきだ。
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▲『Beyond a Steel Sky』。600円のサービスについてくるゲームと思えないぐらい良い。

報道によればAppleは、エンゲージメントが高い作品として多くのステージを持つパズルゲーム『Grindstone』を挙げたという。
『Grindstone』は一筆書きでステージのブロックをなぞって消し、主人公の進む道を切り開くパズルバトルゲームだ。構造としては『キャンディクラッシュ』などのカジュアルパズルに近く、ステージが追加しやすい。
実際、先日アップデートでステージが追加されている。
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▲2019年のGame of the Year mobile候補にもなった人気作品で、特別面白いから人気を集めているのもあると思う。

もし、この路線に変更するのであれば、Apple Arcadeはカジュアルで似たりよったりの薄く長い体験を提供する路線へ転換することになる。
スマホでは基本無料の永遠にステージが追加されるゲームが大量にある。
この方向性に行くとしたら、もともと掲げていた「有料ゲームの復活」も消えるし、サービスとしての特徴も魅力も消えてしまうだろう。

果たして、Apple Arcadeは今後どうなっていくのか。
できれば、今の路線のままでゲームの品質を高めて欲しいが……カジュアル路線にかじを切ったら、おそらく加入をやめるだろう。

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