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市民、あなたを幸福にするのはAIの義務です。社会的統制、AI、完全監視社会を描くSFアドベンチャー『Beyond a Steel Sky』レビュー

Beyond a Steel Sky (App Store 無料 / Steam )
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「私はシステムと融合し、みんなの生活を見守り続けます」
「ジョーイ……!」
「悲しまないで、これからは私はどこにでもいるのだから」
ゲームの終わりに仲間が何か存在と融合して、世界を司るシステムが正常化してハッピーエンド。
この『Beyond a Steel Sky』は、1994年に登場したアドベンチャー『Beneath a Steel Sky』の続編であり、そんなエンディングのあとを描くゲームである。
大いなる犠牲を払って平和になって……果たして、それで世界は救われたのだろうか。
前作において、主人公ロバート・フォスターは人間を乗っ取って育ったAIが支配するユニオン・シティに潜り込み、自作AIであり、親友でもあるジョーイと共に支配を打ち崩す。
そして、最終的には管理AIと入れ替わったジョーイに対して「市民を幸せにするように」と言い聞かせてロバートは都市を去り、ユニオン・シティは人間のユートピアとなってハッピーエンドを迎える。
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▲前作のストーリーはコミック形式で語られる。今作だけプレイしても問題ない。

しかし、その10年後にまた事件が発生する。
ロバートの住む集落に謎の4足歩行機械が出現し、子供が誘拐されたのだ。
そのあとを追って見えてきたのは、ユートピアになったはずのユニオン・シティだった。
ジョーイは、いったいどんなユートピアを作り上げたのだろうか……?
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以上があらすじなのだが、その導入は見事の一言だった。
まず線が太いタッチのCGは圧巻の迫力で、荒廃した世界と豊かなユニオン・シティの対比を一目で伝える。この迫力にまず圧倒される。
このゲームは全編3Dで表現されていて、このフィールドを自由に移動して自由に見まわせる。
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▲PCなどの大画面でも十分映えそう。スマホ版は2.5GB、4K対応のMac版は16GBオーバーというサイズ。

次に、物語にプレイヤーを引き込む力の強さ。
こういった世界観重視のゲームでは、いかにしてプレイヤーに世界観を知ってもらうかというところが最初のハードルになる。
無理に説明しすぎれば飽きられるし、記憶喪失の主人公を用意して世界観をいちいち説明するのは便利だけども使い古されている。

そこに対して、『Beyond a Steel Sky』は良い回答を示している。
冒頭で前作のシナリオ概要を説明して親友が「市民のユートピア」を作ったことを知らせ、プレイヤーに「AIが作った理想郷はどんなものなんだろう?」と興味を抱かせる。
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▲来客対応までオートメーション化。AIガイドにまで人格がある世界

さらに、久々に訪れたユニオン・シティにはロバートを知るものはなく、ロバートはグラハムという男の市民IDを手に入れてシステムを騙して入場することになるが……グラハムの個人情報を手に入れなければ、早晩に正体がばれてしまう。
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▲グラハムのIDを手に入れ、グラハムの自宅に行き、執事ロボと会話する主人公。どうやら幸福度という尺度で政府が世帯を管理しているらしいが……?

プレイヤーの興味と必然性の両方が「登場人物の背景と、舞台設定を知る」という方向に向かう作り。
そして、ゲームの舞台も単に見た目に魅力的なだけでなく、触れて知ることが楽しいものとなっている。
登場人物には豊富な会話パターンが用意されているし、バーで飲み物を注文できたり、博物館で様々な出し物を見たり、細かい部分まで反応がある。
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また、本作においては機器のプログラムを入れ替えるハッキング装置が登場する。
これは、既存のプログラムの命令の一部を入れ替える「置き換えパズル」として表現されている。
たとえば、VIPだけが開ける自動ドアプログラムには「権限がなければ警告」「権限があればVIPエリアへのドアが開く」というプログラムがなされている。
これを入れ替えると……「権限がなければVIPエリアへのドアが開く」「権限があれば警告」としてVIPエリアへ権限がなくても入れるわけだ。
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当然、このハッキングはゲームの進行で重要な役割を果たすが、単にいたずら目的で使用することもできてしまう。
「静かにお掃除」するロボットと、「ウキウキ説明」するロボットのプログラムを入れ替えて、「ウキウキお掃除」ロボットを作りだしたりもできる。ウキウキはロボットの動きに反映されて、変更後は楽しそうに掃除を始める。
適当にプログラムを入れ替えてデジタルサイネージの広告を変更したりもでき、ちょっとしたおまけ要素にもなっているのだ。

そんな感じでゲームの必然としてユニオン・シティを探索すると、その反応の豊かさに引き込まれ、自然と物語にも引き込まれていく。
そんなつくりが最初から最後まで徹底されている。

物語が魅力のアドベンチャーでは謎や行き先に迷ってその魅力が削がれることもあるが、本作はヒント機能が充実していてスムーズにプレイできるのも良かった。
ヒントを見ることに抵抗がある方もいるかと思うが、ヒントは何段階かに分かれて表示される仕組みで、大きなネタバレを防止しつつ利用することも可能だ。
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最初にヒントを見ると「どこにいけばいいか」がわかる。そして2つ目、3つ目以降に表示されるヒントで「何を考えればいいか」、「正解はこれ」と表示されるため、1つ目のヒントだけを見るなら謎解きを放棄しないですむ。行き先がわからない問題はゲームの欠陥ではあるが、わからなくなったときに示してもらえるのは次善の策としてアリだと思う。
実は私も、ヒント機能の1段階目をプレイ中大いに活用した。
アドベンチャーや謎解きが苦手な方も、このゲームの物語はきっちり楽しめるので安心して欲しい。

ただ、残念ながら本作の欠点として「ハマりが多い」というのが挙げられる。フラグ管理がきっちりしていないのか、終わったイベントが終わっていない扱いになることが6時間のプレイで3度もあった。
バグだけでなく、プログラム入れ替えで攻略上必要な機器をどこか遠くに追い払ってしまうと、そのまま進めなくなってしまう現象もあった。
あとで修正されると思うが、すぐ遊びたければモノレールから降りた瞬間に毎回手動セーブするといいだろう(降りて進めるとイベントが発生してハマる可能性があるので降りた瞬間をお勧めする)。

それさえ心がければ、このゲームは今のままでも楽しめる。
主人公の親友であり、「市民を幸せにする」ことを命令されたAIジョーイは10年間でどのような都市を作り上げたのか。
SFゲーム好きなら興味を抱かずにいられない、「ハッピーエンドだったはずのSFゲームの先」をぜひ見ていただきたい。

それにしても、なぜSF系ゲームでAIが作る理想郷はゆがむのだろう。

概要:
AIによって作られた人間の理想郷を訪れ、その真実を知るアドベンチャー。6時間程度で気持ちよく終わる。

評価:7(要チェック)

おすすめポイント
自然に入っていけて興味深い物語
見栄えのするグラフィックと反応豊かな街
ヒント機能が充実

気になるポイント
移動速度がちょっと遅い(何度も行き来して自力で謎を解くときに面倒)
進行不能バグに遭遇する(これが直ったら評価8)
歩く操作など頻繁に使わない操作はやや使いづらい

アプリリンク:
Beyond a Steel Sky (App Store 無料 / Steam 7月26日予定)

開発:Revolution(イギリス)
HP:https://pw.giant.games/
レビュー時バージョン:1.0.25367
課金:なし

ライター:寺島壽久(ゲームキャスト トシ)
ゲーム紹介サイト、ゲームキャスト管理人でゲームライター。
アクション、新しさのあるゲーム、旅を感じるゲームが好き。
Twitterでも情報発信中