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なぜ、『Slay the Spire』はこんなにも面白いのか。ローグライト・デッキビルドRPGの起源からの変化を考えてみた。

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これは、私個人の好みの話である。
私は、どうして『Slay the Spire』が好きなのだろう。
PC版をさんざん遊んだのに、スマホ版が出たらまたハマって世界ランク上位に入る勢いで遊んでしまう。
レビューを書けば10点満点中、10点。

ゲーム機と違ってスマホはどこでも遊べるし、すぐ起動して、すぐやめられる。
それがハマり度を押し上げているのはわかるが、それにしても面白い。

『Slay the Spire』の基本的な紹介は、最初に書いたレビュー記事を見てもらうとして……。
すでにたくさん存在する“ローグライト+デッキビルドRPG”の『Slay the Spire』を、なぜこんなにも面白いと感じてしまうのか。
スマホ版を遊びながらずっとそれを考えていた。
そして、『Slay the Spire』は一般的なローグライト+デッキビルドRPGジャンルの核となる部分を再構成し、より洗練させている数少ないゲームである、と結論づけた。

私が知る限り、ローグライト+デッキビルドRPGの決定的な成立は2014年。米国の大学生のPeter Whalenさんがリリースした『Dream Quest』だ。
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『Dream Quest』は、後のローグライト+デッキビルドRPGが持つ基本ルールをほぼ網羅していた。

・スタート時に職業を選び、職業によって手に入るカードが異なる
・マップを踏破してボスを目指すランダム生成マップ
・カードが提示されてデッキをつくる仕組み
・ショップなどでカードを消したり、購入したりして運を補う
・アタック、スキル、装備(StSのパワーに相当)というカードの区分け
・アクションポイントを消費してカードを使用するターン制バトル

2014年にして恐ろしい完成度だった。
Peter Whalenさんは後にBlizzard Entertainmentに入社し、ヒットゲーム『ハースストーン』を制作するのだが、『Dream Quest』の完成度を考えれば後の活躍も納得できるものでしかなかった。
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▲世界で対戦DCGのブームを作った『ハースストーン』。『シャドウバース』もこのゲームがなければ出てこなかったかもしれない。

そして『Dream Quest』が出てからそのフォロワーが登場するのだが……その多くは独自要素として見た目やストーリーを強化したものだった。
確かに『Dream Quest』の見た目は明らかな短所。
ゲームが面白ければ見た目は関係ないと語る宗派のゲーマーもいるが、同じ面白さだったら見た目が良いに越したことはない。
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▲カードのイラストが……

フォロワーの多くは、ローグライト+デッキビルドRPGの面白さを広めるため、ビジュアルなどを強化して親しみやすくする方向が強かった。

具体例を1つ挙げるなら、最近日本語化された『満月の夜』。
マップをカードで表現して統一感を持たせつつ、すべての敵にストーリーを設けて戦闘を通じて全体のストーリーを想像させる試みがなされ、イラストもキャッチー。
ビジュアル、ストーリーでゲームに導き、気づくとハマっている良作である。
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そういったフォロワーがいくつも登場し、面白いゲームは多かったが……私はそこに共通する不満も感じていた。
1つは、ゲームに習熟して正しい選択ができるようになると、ほぼクリアできてしまうこと。
ゲームとして「正解を学習すればクリアできる」ことはありだから、ゲームとして間違っているわけではない。
しかし、遊びすぎるとパターンで攻略できてしまい、結果の分かりきったソリティアを遊んでいるぐらい味気なくなってしまう。
贅沢な悩みだが、私は「もっと遊びたい」と思っていた。

そしてもう1つは、バトルの面白さを左右するカード能力・システムに変化が見られないことだった。
『Dream Quest』には、堅実なウォリアー、カードを何枚も引いて戦うコンボ系のシーフ、MPを消費して攻撃的な魔法を使うウィザード、同じくMPを消費して回復と時間経過で効果を発揮する防御的な魔法を使うプリーストの4職業が存在する。

これがとても良くできていたので、フォロワーの多くはほぼそのまま真似をした。
もちろん、ある程度要素は付け加えるが、根本の仕組みが同じなので違うゲームを遊んでいるのに、まったく同じ戦術を使い続けることも多かった。

『Slay the Spire』はそこに完全にメスを入れていた。
1つめの欠点である「正解がわかるとプレイがマンネリ化する」問題は、レリックという独自要素で解決した。
レリックによって毎プレイカードバランスが変わるため、常にプレイの感覚が変化する。
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そうなるとデッキ構築が複雑になりすぎてしまうが、『Slay the Spire』は敵の次の行動が明示される仕組みとなり、バトルをわかりやすくしてバランスをとっていた。
プレイヤーは、数回プレイすればすぐに敵の行動パターンを学習でき、「このマップでは○ダメージ程度防げれば良い」などと目標を持ってデッキを作れるようになる。
そのため、カードは変化して複雑になったが、敵データが明確なのでデッキが目指すポイントはわかりやすくなり、バランスはとれていた。
「レリックでバランスが変わる」ことと、「敵の行動がわかる」ことは大発明だと思った。
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職業ごとの遊びも大きく見直されていた。ローグライト+デッキビルドRPGは、1つの職業を極めても、異なる職業で異なる遊びが楽しめるのが魅力の1つだ。
『Slay the Spire』も4つの職業があるが、『Dream Quest』の単なるまねではなく、「違うゲームを遊んでいるのに、同じ戦術を使っている」ような気持ちにはならなかった。

まず、『Dream Quest』に近い職業は、より戦闘の駆け引きが面白くなるようなリメイクが施されていた。
アイアンクラッドは力強い戦士だが、単純な力押しで戦う職業ではなくなっていた。
敵に対して状態異常を仕掛ける遊びが追加されていて、敵を弱体化(ダメージは1.5倍だ!)させた瞬間に一気に攻めるカタルシス、それまで戦線を維持する工夫など、攻めと守りのタイミングが切り替わる巧みな戦士に変化している。
さらに、『Dream Quest』では1人で出てきた敵が複数で登場するようになり、全体攻撃で戦う場面があってデッキ構築の深みも増していた。1人に強くても、多数を相手には生き延びられない。
ベースは『Dream Quest』でも、遊びは遙かに深くなっていた(Slay the Spire登場以後、敵が複数で出てくるゲームが増えたように記憶している)。
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もちろん、『Dream Quest』に存在しない職業もある。
なかでも機械人形であるディフェクト(分類するなら、魔法使い系にあたる)の作りには驚いた。
多くのローグライト+デッキビルドRPGには、MPを消費して攻撃したり、カードを使用してから一定ターン経過で強力な攻撃を行う魔法職が存在する。
しかし、『Slay the Spire』ではMP方式を採用しなかった。
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先に書いておくと、私はMP方式で戦う魔法使いはやや面白みに欠けると感じていた。
戦士と比べてMPを管理する計算があるが、慣れてくるとMPが常に足りる均衡点を見つけられてしまうことが多い。そうなると、プレイ感はMPで殴る戦士といった感じで、面白いけど戦士と異なるプレイ感を提供していると言いがたかった。

が、『Slay the Spire』ではMPではなく限られた「スロット」に「オーブ」という魔法的な能力を持ったアイテムを充填する方式にしてこれを解決していた。
スロットに氷のオーブを充填すれば毎ターン防御力が増えるし、雷のオーブを充填すれば毎ターン敵にダメージを与えられる。これが永遠に続く。

しかし、無限に攻撃や防御の力を得て無敵になれるわけではない。スロットの数には限りがある。また、オーブを消費するとで、一時的により強力な効果を得られるので、戦況に応じてオーブを減らす選択も必要になる。
スロットにあるオーブをやりくりして、敵に合わせて必要なオーブを充填し(当然、デッキの構成上それが得られないと大変なことになる)、場合によっては一気に解放してピンチをしのぐ。
この計算が楽しかった。

従来型のMPを消費する魔法は、MP補充問題を解決すると「MPで殴る戦士」として戦えた。
しかし、ディフェクトは戦闘の数ターン先を考えて、必要になるであろうオーブ(魔法)を充填し、適切なタイミングで解放しなければいけない。
この戦い方は奥が深く、魔法使い系職業の欠点と感じていたMP管理の単調さを解決していた。

多くのゲームが核の部分に手を入れずに上物を変更しているなかで、根本的な仕組みの再構築とアップデートに力を入れた数少ないゲームが『Slay the Spire』だったのだと思う。
スマホ版『Slay the Spire』を遊びながら、ずっとこんなことを考えていた。

で、要素を見ていくほどに私が「こうあって欲しい」と思っていた点が思い通りになっていて、紹介記事を書こう、となったとき迷わず10点満点をつけた。
非常に面白いゲームだと思うので、紹介記事を見て面白そうだと思えたら是非体験してもらいたい。

なお、ゲームキャストの点数はライターの大好き度であり、点数の多寡でゲーム品質の優劣が決まるわけではない。
最初に書いたとおり、これは私個人の好みの話なのだ。
実際、カードゲームなどをまったく遊ばないプレイヤーがいきなり入るには難易度が高いし、人によってはもう少しライトに遊びたいとも思うだろう。
そう言った方には記事にも出てきた『満月の夜』がおすすめだ。
これは「『Slay the Spire』と別方向に進化したローグライト+デッキビルドRPG」として楽しめるはずなので、『Slay the Spire』をすでに遊んでいる方で未体験ならこの機会に遊んでみて欲しい。

アプリリンク:
Slay the Spire (App Store 1,220円 / GooglePlay 開発中 / Steam 2,570円)
満月の夜~Night of Full Moon (itunes 120円 / GooglePlay 無料)
Dream Quest (App Store 370円 / Steam 980円)