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格闘ゲームの対戦に必要なのは勝ちではなく、負けに寄り添ってくれる友達である。

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いま、格闘ゲームファンの間では『グランブルーファンタジー』を題材とした新作、『グランブルーファンタジー VS』が話題になっている。
その話題の1つに、「対戦格闘ゲームはハードルが高すぎる」なんてのがある。
これ自体、もう何周した話なのか……とは思うが、今回は「対戦は究極にハードル高い」という話と、それを楽しむ方法について語る。
今回、とくに言及がない場合、今回は1vs1でアクション性が強く、運の要素で逆転が少ない対戦ゲームに関して述べることとする。

私は、対戦格闘ゲームのオンライン対戦モードはとても楽しいが、楽しむにはある種の素養と努力を要するハードルが高いものだと考えている。
このモードは究極のエンドコンテンツだ。そして、それを楽しむために必要なのは友達しかない。確信している。

レートで決まる1vs1の対戦モードは万人向けではない

現代のオンライン対戦モードの多くは実力を示す”レート”を利用してフェアな対戦環境を実現しようとしている。
対戦している間に強者はレートが上がり、弱者はレートが下がり、最終的には互角のプレイヤーと戦って勝ったり負けたりして、勝率が5割の五分の戦いができるようになるというものだ。

ところが、勝ったり負けたりする対戦モードは普通のプレイヤーにはストレスであるらしい。
ゲーム会社が行ったある調査によると、対戦ゲームにおいて勝率50%のプレイヤーは「面白くなかった」などと回答する一方、勝率80%程度に至ったプレイヤーは「非常に面白かった」と回答する傾向があったという。
あるゲームを30回プレイして,勝率50%の人に聞いてみたところ,「面白くなかった」「アンフェアだ」と回答する傾向にあったというのだ。一方,勝率75~80%のプレイヤーは,「非常に面白かった」「フェアなプレイ内容だった」と答えたという。実際にフェアかどうかと,プレイしている本人がどう感じるかには,ズレがあるのだ。
NDC18キーノートレポートより
これが事実であれば、対戦ゲームのレーティングがフェアで、勝率が5割になるとしても、続けるのは厳しいモードということになる。

成熟した対戦ゲームジャンルでは新規参入しづらくなる

そこに追い打ちをかけるのが、ジャンルの成熟だ。
対戦ゲームジャンルは、流行って経験者が多くなるほどに新規参入が難しくなる。
今では想像できないかもしれないが、『ストリートファイターII』が流行ったころ、とても分かりやすくてプレイのハードルが低いゲームであることもヒットの要因などと言われていた。

格闘ゲームは「レバーと大攻撃ボタンを振り回していれば戦えるから誰でも遊べる」と言われるほど前提知識がいらないジャンルとされていたし、ブーム当時ですら小さなゲームセンターでは「波動拳が確実に出せたら勝てる」こともあるぐらいにテクニック要求度が低かった。
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▲左右で波動拳を撃ちあって、コマンド失敗したほうが波動拳を受けて負ける、みたいな遊びもあったなぁ。

ところが、格闘ゲームが歴史を重ねるとプレイヤーに経験がたまって話は変わる。
完全新作を遊んでいても格闘ゲームという基本の型は同じだから、過去作の経験が生きる。
すると、完全な初心者と経験者の間には数十時間~数百時間ものゲーム経験の差が生まれ始めた。

コンボの概念、ガードの崩し方、フレームの概念、当たり判定と差し合いを理解しているか、そしてそれらの知識を操作としてゲームで利用できるか。

格闘ゲームが人気になって経験者が増え続けると、それらを最初から理解している人が増え、完全初心者には勝てない相手が増えていく。
勝率5割でも楽しめないのに、強力な経験者とマッチングしたり、初心者狩りも存在するオンライン対戦が厳しいというのは、理解してもらえると思う。

大パンチ・大キックだけで遊べた格闘ゲームのスタートラインはどんどん高くなり、「格闘ゲームは敷居が高い」と思われているのが現代と言えるだろう。
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▲一応補足しておくが、成熟は悪いことだけではない。例えば、『ストリートファイターIII 3rd Strike』のようなコアファンがずっと遊べる名作を生み出すのも成熟の結果と言える。

最盛期の格闘ゲームは、1vs1の遊びではなかった

勝率5割では面白くない。
しかし、大昔のブーム時の格闘ゲームだって、1人が勝てば1人が負ける。
全体で見れば勝率5割だったはずだ。
それでもブームになったのは当時の格闘ゲームの遊ばれ方が単純なオンライン対戦とは異なっていて、単純な1vs1の遊びではなかったことに理由があると考えている。

ネット対戦が普及していなかった格闘ゲームブーム時代、対戦はゲームセンターや友達の家に集まらならなければできないものだった。
つまり、必ず気心が知れた友達と遊ぶもので、初心者ならばいろいろと教えてもらえるし、手加減してもらえたりもした。
補足・当時のゲームセンターは治安が悪くて不良に絡まれることもあったから、基本的には大勢で友人といくものだった。ゲームセンターに行くから(危険を避けるために)友達を誘うというのは普通に見られる光景だった。
ゲームセンターに気軽に1人で行けるようになったのは、UFOキャッチャーなどで一般客がつき始めた時期からだ。
また、複数のプレイヤーがいると絶対に待ち時間もあって、待っている間は他の友達のプレイを見ることになる。
それがとてもうまく機能していて、友達のプレイの癖などが見抜けてたり、自分の知らないテクニックを見て学ぶことができた。

「お前、〇〇を撃った後にジャンプ攻撃する癖があるから、アッパーすれば勝てるんだぜ!」

なんてこともあった。で、勝てたりするとまた見ていた友達が「あの××に勝つなんてすごいな!」と褒めてくれる。
そんな感じで、格闘ゲームの楽しみはほぼ必ず「遊ぶ・見る・観客と話す」が一体化したもので、現在のオンライン対戦とは楽しみ方が違っていた。

ゲームセンターでは強敵に勝てたときの勝利の価値は現在よりも高かいというおまけもついた(1プレイ100円の権利をかけているわけで、スリルもあった)。

さらに言えば、ギルドバトル的な面白さもあった。
ゲームセンターで面識のないプレイヤーと戦うときはグループ内の代表が恐る恐る挑んだり、強敵相手には友達みんなで挑んだりした。
誰かが勝てば拍手喝采で、これは現代のゲームにおけるギルドバトルのようなものだった。
全員が戦って、だれか1人勝ち残れば自分たちのグループが勝ったことを誇ったりした。

対戦格闘ゲームは1人で操作するものだが、遊びとしては友達と一緒が前提だった。

負けに寄り添ってくれる友人たち

それだけじゃない。友人と遊ぶことには、いろいろなメリットがある。
負けまくっても、いつの間にかその場の目的が「グループで1番強いプレイヤーを倒す」に変化していたりして、遊び方として1vs1の対戦でなくなっていることもある。

明らかに誰かが下手で勝てず、楽しめていなければ「そろそろマリオカートやろうぜ!」なんて感じで空気を読んで遊びを変えてくれる。
こういった友達がいることで、格闘ゲームで対戦し続けることができた。
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▲SFC格ゲーの友はマリオカートだった。

ゲームセンターで負けた後に「ゲーメスト(格闘ゲームの攻略方法が速い雑誌)買ってきたから、これを見て勝とうぜ!」なんて感じで、誰か1人やる気が残っていたらまた挑むみたいなこともあった。

勝ちを共有できるだけでなく、負けも共有できるから格闘ゲームは楽しかった。
勝率が3割だろうが、ときどき大きな勝ちができれば、それで楽しめた。

結局のところ、1vs1の格闘ゲームに必要なのは負けを共有できる友達ではないかと思うのだ。
最近ではDiscordという手軽に小さなグループを作れるチャットツールもできているので、それを利用してグループなどを作るのがいいのではないか。
(コミュニティが作りやすくなっているわけで、これは対戦ゲームに対する追い風で、格ゲーを盛り上げたいプレイヤーは今こそ初心者を集めて友達になり、サポートするべきだと思う)

『グラブルVS』で言えば、仲のいい騎空団が全員で購入して、身内だけで古戦場をさぼってDiscordでチャットしながら遊ぶのが一番だろうと思う。
ということで、タイトルの画像に戻る。
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友達を呼んで遊ぶ対戦格闘ゲーム、最高!うぇい!

みんなで遊ぶ格闘ゲームの終わり

この先は私の周囲の話であり、ブーム当時の様子の一例として聞いてほしい。ただ、似たようなことは何回か聞いたので、こういったことは色々な場所で起きていたと思う。

前置きをしたところで……友達と楽しむ格闘ゲームも永遠ではなかった。

最初にみんなでハマった『ストリートファイターII』は、しばらくして廃れた。その理由は、S君が昇竜拳を確実に出せるようになったからだった。
波動拳を撃って体力を削り、ジャンプして避けると昇竜拳で撃ち落とす波動昇竜拳という戦法に誰も勝てない。
そうなると、みんなプレイをやめてしまった。ゲームセンターに行っても、S君だけが対戦するようになっていった。

しかし、格闘ゲームをやめたわけではない。
次に格闘ゲーム『らんま1/2 町内激闘篇』が流行った。このゲームは複雑なコマンドがなく、ボタン同時押しで必殺技が出た。
つまり、必殺技コマンドが入力できなくても互角に戦えた。
さらに、防御ボタンが存在していて、めくり攻撃(ガードを崩すテクニックの一種)を無効化できた。
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▲飛龍昇天破!昇竜拳相当の技がボタン同時押しで出る衝撃!

これなら差がつかないぜ、とグループ内で楽しく対戦が始まったが、しばらく後にS君だけが勝つようになって廃れた。

「格闘ゲームはハードルが高い!」なんて言われるが、もうずっと前からメーカーはたくさんの挑戦をしていた。
今思えば簡単コマンドな『らんま1/2 町内激闘篇』で格闘ゲームを再開したり、『封神領域エルツヴァーユ』(すべての技を方向キー+ボタンだけで出せて、究極簡単格ゲーだった)でまた再開したり、その試みは成果を上げていたと思う。
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▲エルツヴァーユ。今でもタイトルソングは歌えるほどやったなぁ。

しかし、それでも最終的にはプレイヤー間の差はカバーしきれなくなっていった。
その後、私とS君は友達グループから離れ、学校内のゲーマー集団に所属することで楽しく上達していった。が、そのグループでも最終的には新作以外の格闘ゲームを遊ばなくなる。
新作が出たときはみんなで楽しく遊ぶが、S君の上達速度が速くなりすぎ、すぐに一緒に遊ばなくなってしまったのだ。

そのサイクルはどんどん早くなり、卒業時にはグループ内でS君と対戦することはまれになっていた。彼は格ゲーの勘も良かったし、効率的な学習もできていた。
最終的にS君はゲームセンターで見つけた仲間のグループに入り、そのグループ内で頻繁に対戦するようになっていた。
操作を簡単にするほかに運要素を入れたり、初心者が逆転できる技を入れる流れもあったが、それらは効果を得られなかった。
運要素は特にダメで、圧倒的に有利なときに運で逆転できたら、それはクソゲーでしかない。将棋では王手をかけた瞬間、20%ぐらいで逆転できたら、と想像するとそのクソゲーっぷりが理解できるのではなかろうか。

また、初心者が逆転できる技は、上級者が初心者を攻撃するときにはもっと有効で、初心者狩りに使われた。
初心者でも逆転できる武器を入れて壊れた対戦ゲームの記事を書いたこともあるので、もし興味があれば見て欲しい。
現在、格闘ゲームを支えているのは恐らくS君のように自己研鑽してうまくなれた人たちだろう。
(S君は近年になっても家庭用格闘ゲームをオンライン対戦で遊び続けている)。

オンライン対戦は、ハードルが高い

私は格闘ゲームというジャンルのハードルが高いとは思っていない。格闘ゲームはとても気持ちよく楽しめるジャンルで、好きなキャラを操作しているだけで楽しいゲームだと思っている。

でも、1vs1のオンライン対戦はハードルが高いと断言する。
初心者にオンライン対戦を与えるのは、友達なしでゲームセンターに放り込むような行為なのではないかな、と思う。
新作が出たからと言ってオンライン対戦にいきなり放り込むのは、S君のように自己研鑽ができる人向けの楽しみを強制しているに過ぎない。

インターネットの発展によって情報が出るのが早くなり、誰でも攻略情報にアクセスできるようにはなった。
それをもとに、系統だった効率の良い練習ができれば上達を楽しめると思う。
しかし、そこまでのやる気を「キャラが好き、なんとなく面白そうだから買った」などのプレイヤーに求めるのは酷だし、それは普通できないからオンライン対戦が厳しいといわれてしまう。

近代格闘ゲームは、対戦の間口が狭い前提

じゃあ、対戦格闘ゲームはもうだめなのか、と言われるとそれもまた違うと思う。
ゲーム業界だって改善して格闘ゲームを楽しめるようにしているし、格闘ゲームの新作は定期的に出ている。

家庭用で多く見られる改善は、1人用の強化だ。
『ドラゴンボール』や『NARUTO』は格闘ゲームだけど今でも人気だ。これは原作のストーリーや技を再現して、1人で遊んでも楽しいからだ。
『ギルティギア』だってこの方向に舵を切っている。
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▲『ギルティギア』では、この映像で長尺のストーリーモードが楽しめる!

1人用をきっかけにオンライン対戦する人が増え、結果的にゲームのコアファンが遊び続けて盛り上がる。今の格闘ゲームはこれだと思う。
対戦格闘ゲームとして楽しいことと、求道者が遊ぶオンライン対戦を両立しようとしている。

スマホで続いているのがRPG要素を入れる方法だ。
スマホの基本無料ゲーム『スカルガールズ Mobile』では、格闘ゲームの腕がかなり勝敗を左右する。同時に、キャラクターの育成も勝敗を左右する。
そういったRPG的な育成要素を入れたゲームとなっている。
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この方法の良いところは、格闘ゲームの対戦に報酬を与えられることで、「強化アイテムが欲しいから対戦しよう」とか「新キャラを手に入れるために格ゲーの腕を磨こう」となるところだ。
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対面でプレイする時代が終わり、1勝の価値が下がった。ならば、勝利の価値を上げればいい。
顔の見えない相手との対戦はストイックすぎて「上達を実感する」「勝つ」ことにしか報酬を見いだせない。
そこに明確な報酬を与えることで対戦を遊んでもらえるし、テクニックの上達なんて見えづらいものではなく、数値と言う形で強くなったことを実感でき「数値を上げれば勝てる」と思わせることができる。
邪道に思えるかもしれないが、これも1つの道と言えるだろう。

昔から格闘ゲーム開発者は間口を広くしようと努力しているし、今も最新の方法がある。
興味があれば、ぜひスマホ版『Skullgirls』を遊んでみて欲しい。
という感じで、スマホゲーサイトなので、最後に『Skullgirls』をお勧めして記事を締めくくる。

アプリリンク:
Skullgirls: 対戦型RPG (itunes 無料 / GooglePlay 無料)