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スマホ版『ユグドラユニオン』ディレクター渡辺恵太さん特別インタビュー。なぜ、STINGは今になって有料ゲームを出しまくるのか

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2019年になって、カルトノベルゲーム『バロックシンドローム』、ファンタジー戦術ゲーム『ユグドラユニオン』と、立て続けに有料アプリをリリースし始めたゲーム会社STING。
両者ともに現代に合わせた見事な移植だったが、特に『ユグドラユニオン』に関しては、完全版と言っていいほどのリメイクが施されていた。
もしかして、STINGは壮大なゲーム移植計画……もしかしたら、新作なんかも考えているのではないか!?
そう考えたゲームキャストは、STINGにお邪魔してその真相と『ユグドラユニオン』移植の経緯をインタビューすることにした。
そして、幸いなことに今回、両スマホアプリのディレクターである渡辺恵太さんに詳しくお話を伺えたので、皆さんにお届けする。

nama
ゲームキャスト。

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渡辺恵太さん。

nama
本日はよろしくお願いいたします。
早速ですが、今回スマホ版『ユグドラユニオン』のディレクターを務めた渡辺恵太さんの経歴を教えていただけるでしょうか。

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入社して『ナイツ・イン・ザ・ナイトメア』、『エクシズ・フォルス』と関わって、『グングニル -魔槍の軍神と英雄戦争-』は技の演出構成を全部担当していました。ディレクターのこだわりがあったので、1人で500の技を考えて発注してましたね。
その後、ガラケーのスティングステーションで『Knights in the Encount』とかをほぼ1人で作って、『ギャザー・オブ・ドラゴンズ』などアプリ開発をメインで担当していました。
今、僕が担当するのは歴史遺産を修復するようなポジションです。
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▲ほぼ1人で作ったというガラケーの『Knights in the Encount』

nama
ガラケーの頃から携帯向けアプリに入ったアプリエリートなんですね。だとすると、今回の完璧な移植も納得です。
さて、それではいきなり今回の核心に入りたいのですが……なぜ、STINGは基本無料ゲームが強い今の時代に『バロックシンドローム』や『ユグドラユニオン』など、STINGのゲームをスマホ向けに復活させたのでしょうか。そこに壮大な戦略が……?

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一番は、タイミングが良かったというところですかね。
僕がやろうとおもって、社内的にも移植を出そうという雰囲気があって、できそうなのでやっちゃいました。

nama
え、フットワーク軽い!?

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大手ではないからできる力技という感じで(笑)
どんどん掘り出し物を掘っていく感じで、今、お宝さがし状態ですね。
そんなこんなで、最初に『バロックシンドローム』が出ました。
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nama
お宝さがしとはいったい……。

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『バロックシンドローム』に関しては、実は4、5年ぐらい前に移植を作っていまして。
その頃に買い切りにするか、広告付きにするのか議論があって、決まらないうちに優先でやる仕事ができて、プロジェクトが眠ってしまったんですよね。
そして年月が経って「そういえば『バロックシンドローム』なんてありましたよね」って僕が言って。
どれぐらいできるのかなって計算して「意外とすぐ出せますよ」ってなったんで。
もともと作っていた期間はわかりませんが、掘り出して2カ月ぐらいで『バロックシンドローム』ができました。

nama
まさに掘っている……!
でも、『バロックシンドローム』の発売を12月に告知して1月に出しているってことは、掘り出しておよそ1カ月で告知。
『ユグドラユニオン』でも渡辺さんがディレクターをされていましたが、まさかその後から開発なんてことは……?

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さすがに、『ユグドラユニオン』は『バロックシンドローム』より前から進んでいました(笑)
僕が関わったのが10月頭ぐらいですかね。
その前にプログラムの移植検証期間があったのですが、PSPの自社エンジンがスマホ移植しやすくて、できそうってなって。
「いっきにやっちゃえ」と。

nama
また掘り出された!
で、『ユグドラユニオン』のアップデート移植をたった半年で!?
スタッフロールを見ると、決して人数が多かったわけではないですよね。
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たまたま集まったスタッフに恵まれて、『ユグドラユニオン』にちょうどぴったりくるスタッフが集まったんです。
メインのプログラマさんはユグドラの経験があって、デバッガーの方も『ユグドラ』をやりこんでいる方で、これは早く出せそうかなって。

nama
良い感じにユニオンが結成できたと。
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▲ユグドラユニオンでは、複数のユニットで陣形(ユニオン)を組んで敵に突撃する

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運が良いことに、ちょうど会社が前にやっていた案件が終了して、スタッフの手が空いて、短期間であればやってもいいタイミングがきていまして。
じゃあ「早く作れます」と言ってやることにしました。

nama
アプリを見ると、操作をスマホに最適化をして、画像は現代水準で高解像度化して、追加キャラと難易度を入れて、完全版と言えるアップデートがなされているように感じました。
これを短期間で完成まで持っていける見込みが立っていたんでしょうか。

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スタッフのみんな熱い気持ちもあって、会社の顔というタイトルだと思うので、若干プレッシャーを感じつつ最高の状態で仕事ができていたのがあるのかな、と。
まず、画像については10月にスマホ版で何をするか決めるとき最初にデザイナーさんが「どうしてもきれいにしたい」と言って。
元画像でも十分きれいだったんですけど、きゆづきさとこさん(※ユグドラユニオンのキャラクターデザイナー)の元絵が、今回使用している画像とほぼ同じサイズだったので解像度4倍まで引き上げました。

nama
スマホ版は、きゆづきさんの元画像とほぼ同じ解像度なんですね……。だから、自然になじんでいると。

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その後、PSP版の仕様を現代に合わせました。
最近だとオートセーブしてくれるコンシューマーゲームが結構多いからその流れに沿ってやって、難易度も調整しようということになって。
社内のほかのスタッフに聞いたときに、女子層が「難しくて、ぜんぜんできません」という声ばかりだったので新しく始める人にストレスフリーなイージーモードを作ることにしました。
イージーでは経験値半分でレベルアップするようにしたり、敵に勝ったときのカード攻撃力上昇値が1.5倍ぐらいになっています。
あと、今の時代はゲームがあふれていて、1つのゲームに対する時間を多くとれない。それを考えるとサクサクできた方が良いかもしれないと感じていたのもあります。
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▲最初に選択する難易度。正直ノーマルでも難しいのでイージーはありがたい。

nama
至れり尽くせりですね。

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今回はほんと、「えいやっ」と、やれるだけやってしまいまして……。
最初に仕様書は作ったんですけど、「ここはこうした方がもっといいよね」ってチームから次々とアイデアがでてきて。「じゃあ、やりますか」と、改善していった結果、予定が遅れてしまいました。
本来の会社の計画では2月に出ている予定でした。

nama
え、2月……『ユグドラユニオン』が発表されたのが2月でしたよね……?

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会社の顔となるタイトルなので、「もっとこうしたいよね」をいろいろ話し合って、会社黙認のまま作っていた感はあります(笑)
で、発表のあともどんどん変えてしまいました。
実はあそこで「出します!」言ったのは「熱烈なファンの方がどう思っているのかな」と情報が知りたかったんですよね。

nama
もしかして、何かしたんですか。リリース2カ月前に!?

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『ユグドラユニオン』などの作品を大切にしてくださる方は多いので、ファンの方の反応を見て3つの機能を追加しました。
1つはコブンの追加。入れる予定も全くなかったんですが、好きな人もいたみたいなので「入れますか!」と。リリースの2週間前にぶっこみました。
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nama
ほう、リリースの2週間前に新キャラ追加。

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その後に『ユグドラ』はアイテムコンプリート死ぬほどキツイと皆さんが言っていたので「確かに」と。
“エクストラコンテンツ”という機能で入手したアイテムが見られるんですけど、PSPではその“エクストラコンテンツ”がクリア時に特定のアイテムを持っていないと開かず、改良してほしいという要望が結構あったので「わかりました」と。
また、エクストラコンテンツのアイテム部分にヒントと、アイテム入手順などを個別に入れさせてもらいました。
それを調整したのがリリースの5日前ぐらい。
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▲カーソルを合わせると、アイテムの落ちる場所がわかる。

nama
5日前。最後の機能は……?

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最後の最後は間に合わなかったので、バージョンアップで入れさせていただきました。
この前アップデートした、音楽を切り替える機能です。
あれもGBA版の音源が好きな人がいらっしゃって、その要望にも応えたいと思ったので……あと、私が『ユグドラ』の音楽が好きだったんです。
僕もGBA版の音源大好きだったのでちょうどいいかなと言うところで(笑)
エクストラコンテンツでの視聴

実は『ユグドラユニオン』との出会いは曲からで。
もともと僕がゲームミュージック大好きで、曲が耳に入ってきたとき「これヤバいな」と。そして後からゲームもプレイしました。
バトル曲大好きで、ユグドラはキャラごとに曲があるのでそこら辺が燃える要素というか。お気に入りはデュランの出撃曲ですね。

nama
確かにGBA版の音は独特の良さがありますね。

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それもあって、僕の一存で入れてしまいました。
全体として、ある程度至れり尽くせりになっているかな、と思っているのですが……また、次回に備えるためご意見を待っています。

nama
いや、原作をやってなくても「あ、これはすごい移植だ」ってわかりました。私が言うのもなんですが、ファンの方でもかなり納得しているのではないでしょうか。
それにしても、「何か深い戦略があってこの時期に有料ゲームを出した」と思っていたのですが……出せるタイミングが来たからやりたいスタッフが全力で出してみたというのが真相だったとは……。
ところで最初に戻りますが、渡辺さんは「歴史遺産を修復するポジション」とおっしゃっていました。ということは、まだ過去の作品……例えば『ユグドラ・ユニゾン』などを掘り出せますか。
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▲DSで発売された『ユグドラユニゾン』。Dept. Heaven Episodesシリーズと呼ばれる共通の世界観を持つ作品群の1つ。

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何とも言い難いのですけど、夢はあります。
いろんなタイトルがあるので、そのときの時代に合わせたスタイルで、どんどん展開できれば一番いいなぁと、あいまいな感じでしか言えませんが。

nama
夢ですか……となると、やっぱり今出ているゲームの勢いが重要になってきそうですね。
『ユグドラユニオン』に関しては、App Storeランキングでも1位を取るなど、調子は良いように見えますが……予定以上に、例えば予定の10倍とか売れたら出たりしますか?(笑)

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いえ、想定の10倍売れたら何でも作りますよ(笑)
今回に関しては、熱心なファンの方や、いろいろなニュースサイトとかの方に助けられて自分の想定している以上に売り上げはあるので、そこはちょっと安心しています。

nama
ああ、よかった。予定より売れないと消える道ってありますもんね。
少し安心したところでもう1つ。これはもっと大きい話になりますが……。
移植ではなく、Dept. Heaven Episodesシリーズの新作などはありえるでしょうか。

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どうにかしたいところではありますよね。思いはあります。

nama
やはり、すぐには言えませんよね。10倍売れてなんでも作れるときがきてほしいですね。
まずは、ゴールデンウイークにみんなで『ユグドラユニオン』をやろう、ということで……。

yugr-1
あ、待ってください。1つ告知はあります。
とりあえず来月にも何かしら、皆さんに伝えられる情報がありますので楽しみにしていてください。

nama
!?

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バロックと、ユグドラと、もう1つを平行に作っていたので……。
「これ、STINGだったの?」みたいなタイトルが出てくると思います。
『ユグドラユニオン』と合わせて、よろしくお願いします。

nama
ありがとうございました。今回の移植を見ていると、次のタイトルも楽しみですね!
出るときにぜひ、リリースをください。

以上。

いまのご時世で、有料アプリがポンポン出てくる背景が、「やりたいから、全力で移植した」だったとは。
インタビューを見てわかる通り、渡辺さんはかなり熱い方だったので、今後の移植にも期待して良さそうだ。そして、売れて新作が出ることを期待したい。

STINGスタッフの皆さん、デジタルハーツの方々、良移植ありがとうございました!
そして、発売2週間前と5日前に新機能をぶち込んだスタッフ(良い意味で狂ってる)に乾杯!
スマホアプリは長く売れるし、いつか積み重なって10倍とか……ある……といいな!?

アプリリンク:
ユグドラ・ユニオン YGGDRA UNION (itunes 1,800円 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)