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なぜ同人グッズは危険で、同人誌に配慮が必要なのか。『ウマ娘』と『プリコネRe』に見る二次創作の考え方

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2018年6月20日、Cygamesの『ウマ娘』公式が二次創作作品に対して「不快な表現を避けるように」お願いをして話題になった。
さらに続いて、『プリンセスコネクト! Re:Dive』(以下、プリコネRe)に関して、私的な制作物を販売できる Booth において二次創作グッズ(同人グッズ)を販売している作者に、出品差し止めの依頼をして話題になった。
当時、多くの二次創作者の方が納得しつつもごく一部では反発を生んでいたようだが、なぜ二次創作グッズはまずいのか、そしてなぜ『ウマ娘』の二次創作に注意しなければいけないのか、グッズやゲーム業界の関係者に取材した。そして、その結果、Cygames の警告は強欲に利権を囲い込むためではなく、ファンを守るために行われている性格が強いことがわかってきたので、ここにまとめて共有したい。

最初に書いておくが、今回は複数のおもちゃ・グッズ業界、ゲーム業界の方に取材を行った結果をフィードバックするものだが、Cygames の方に取材はしていない。よって、これは複数の業界人の意見をまとめたものであって Cygames 公式の見解ではないことを前提に読んで欲しい。

さて、「二次創作はグレー」などと言われるが、実際にはどうなのだろうか。
それを知るためには、著作権侵害の仕組みから理解していくのが手っ取り早い。漫画・ゲームなどの著作権には二次創作をコントロールする権利が備わっており、権利者は自分も自分の判断で二次創作を許可したり、違法とみなす(実際は裁判などの過程が入ることが多いが)ことができる。訴えたりを自由にできる。つまり、「二次創作は作品の権利者の気持ちで有罪にできる」という仕組みがある。
権利者が見逃している限り二次創作は犯罪ではないが、権利者がNGであると感じたら即座に訴えられうる。二次創作をして発表した時点で、権利者は発表側を訴える権利が生まれる。
一部で言われているように「二次創作をする表現の自由がある」というのは誤りで、「権利者は二次創作者を訴える権利を与えられている」というのが正しい。
二次創作権など存在しない。あるのは著作“権”だけだ。

では、二次創作が権利者に見つかったら即座に犯罪になるのかと言えば、実態はそうではない。厳密には二次創作には権利者の許可が必要だが、見逃されることも多いのだ(権利者には見逃す自由がある)。
実際のところ、ゲームやアニメの人気の盛り上がりに二次創作は一役買っている。例えば、お気に入りのキャラクターを描いて Twitter などで「●●描きました!」と公開して盛り上がるのは楽しいし、共有しなくてもうまく描けたら描いた本人の中で作品への愛は深まったりする。
愛があって無害な二次創作に関しては権利者からすると「作品に愛を注いで、盛り上げてくれてありがとう」という気持ちで見ていることも多い。私自身がメーカー側のときだってそうだったし、だからこそむやみに訴えたりはしない。

ただ、この「無害」というところがポイントで、害と感じる部分は権利者によってさまざまで明文化されていないことが多い。そこが「グレーゾーン」と呼ばれる理由になっているのだろう。
もともと同人やオタク文化と縁が深いものには二次創作規定を作るものもあるが、公式が二次創作を認めるとそれらを管理する必要も出てくるため、明確に二次創作の許可を出すメーカーは少ない。
そのため二次創作を作る側は「これなら原作者が不快にならないし、作品に害も与えないだろう」と類推して、「原作者が怒って有罪にされませんように!」と願いながら作るものだ。
極端な話をすれば、無害に見える絵を描いても「ゲームメーカーの社長が嫌だったから」という理由で裁かれる可能性もある。自分なりにリスペクトをこめて描いたとしても、原作者の怒りに触れたら訴えられる可能性がある。本来、二次創作とはそういう危うい存在だ。

とはいえ、コミックマーケットの現状を見ればわかる通り同人誌が見逃されるケースは多く、いろいろな著者がのびのびと二次創作をしているのが現状だ。過去の二次創作物への対処を見て、原作を尊重している限り、よほど特殊なケースを除いて委縮する必要はないとも思う。
また、二次創作自体はメーカーの規定を守っていれば明確に合法だし、暗黙の見逃されるレベルを守っている場合も合法と言える。犯罪行為ではないのだ。とはいえ、暗黙ルールは気持ち次第で変わるので、危険であることには変わりないが。

同人誌は見逃されることも多い。ところが、グッズになると話は変わってくる。なぜ、同人誌は見過ごされて、グッズはだめなのか。そこには権利を行使したい人間の違いと、商業上の競合が存在する。
まず、同人誌は基本的に奥付けなどがあって公式ではないことが一目でわかるし、多くの場合は権利者の商売と競合しない(例外的に一次創作者が同人誌を出すこともあるが、ゲームに関しては会社がそれを禁止していることが多い)。一方、グッズに関しては一目で同人とわからない作りになることも多く、権利者の商売と直接競合するのだ。

グッズ類はグッズメーカー側から制作を持ち掛けて作る。
グッズメーカーは何度も監修を受けて製品を調整し(場合によっては「髪の跳ね方が気に入らない」など微妙な部分のこだわりだけで完成品を作り直すことすらある)、権利料を支払い、コストをかけてようやく物を販売できる。
ところが、採算無視で上手な同人絵師が作ったグッズは細部がメーカーの意向に沿わなくてもそれなりに見えてしまうし、それが通販サイトなどに出回ると二次創作と区別がつかなくなる。すると、商売上直接の競合となってグッズメーカー、グッズ販売店の損害にもなる。そのため、グッズ系は権利者・グッズ製作者・販売店に3重に監視され、簡単に二次創作は許されない。
もしくは、グッズを販売する段階規模になった作品で禁止されることも多い。

Cygames は『プリコネRe』が同人グッズを差し止めたことで一部で不満が漏れていたが、ここからわかることは『プリコネRe』は皆の応援を受けてそういった“一定以上の規模”に達したということで、むしろ「みんなが応援したゲームが、グッズメーカーから需要が出るほど成長した」めでたい事と考えられる。
訴える権利を持つメーカーが警告で済ませるのは「今まで応援してくれてありがとう。でも、ゲームが成長してみんなにグッズを作る以上、今後はグッズメーカーを通じて訴えられたら動かないといけないし、危険だから今のうちにやめてね」という穏便な意味ともとれる。
なお、この状況でグッズを作らない人間が「作ってください」とお願いするのは「私は責任を持たないけど、私のために犯罪を犯してください」という発言と同義なので、無視するのが正しい。

さて、続いてさらに踏み込んだ表現で「キャラクターならびにモチーフとなる競走馬のイメージを著しく損なう表現、競走馬のファンや馬主、および関係者が不快に思う表現は行わないように」お願いをした『ウマ娘』についてみていこう。
こちらにも、納得の背景がある。そもそも『ウマ娘』自体が現実の馬と競馬を元にした二次創作に近いもので、Cygames に大元の権利がないことも想像される。『ウマ娘』の二次創作は、三次創作的(細かいことを書くと色々あるが面倒なので以後、三次創作と書く)な性格をもつもので、三次創作者は Cygames だけでなく、馬主などの機嫌を損ねても訴えられる可能性が出る。

Cygames は契約を結んでいるだろうから『ウマ娘』を出しても契約の範囲内で問題ないはずだが、三次創作者は違う。しかも、三次創作に対する態度は二次創作による作品盛り上げ活動をある程度は許容しているゲーム系業界と、勝負に生きている競馬業界の方々では異なる。
例えばソーシャルゲームでは弱いキャラクターを“産廃”などと表現して、それを絵で表現する文化が一部にある。しかし、『ウマ娘』に関してそれを馬刺しのような食べ物で表現してしまったら、三次創作者が一次創作者を通じて訴えられることすら考えられる。ウマ娘公式の警告(禁止ではなく、あくまで注意して欲しいという発言)は、作品を盛り上げるファンを守るための注意という側面もある。
もちろん、『ウマ娘』を荒らす目的で挑発的な創作を行って競馬業界を怒らせた結果、Cygames が被害を受け、三次創作者がとほうもない賠償金を請求される(例えば、馬主さんの1人が致命的に怒ってキャラクターが1人減るなどが想像される)可能性があるので、それもやめておいた方が良いと書いておく。

長くなったが、聞いた話をまとめる限り「契約なしに二次創作を行う権利というものはなく、無許可の二次創作は権利者に裁定権を与えることを知ったうえで、それでも作品に寄与したい、愛を表現したい者が行う行為」となる。
そして、それを知ったうえで話を見ていくと、 Cygames による『プリコネRe』グッズ禁止令、『ウマ娘』の創作に関する注意は自社を守るためだけでなく、創作を行うファンを守るためにも行われている側面が強いということが理解していただけるのではないだろうか。

関連リンク:
応援してくださっているファンの皆さまにご注意いただきたいこと|ウマ娘 プリティーダービー 公式ポータルサイト|Cygames