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ゲーム業界未経験のSEがゲーム会社に就職してゲームを1本出すまで『マッチョGoGoGO』で見るゲーム会社の中途新人研修の実態 - PR

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ゲーム開発をモチーフにしたアニメや小説では、ゲーム会社はブラック企業として扱われることが多い。主人公が中小のゲーム会社に入って、いきなり現場に放り込まれて成長していく展開を見るが、実際はどうなのだろうか?
本記事は業界でも技術力で定評のある(※本当です)クアッドアローさんの新人研修(3カ月)で作ったアプリ『マッチョGoGoGo』をPRする依頼を受け、その制作過程をお聞きすることができたので、皆さんにお届けしたい。
学生の皆さん(そしてゲーム会社に興味がある皆さん)これが、ゲーム会社とその新人研修の様子である。

<クアッドアローってどんな会社?>
ゲームキャスト:
ゲーム会社の新人研修の話を聞く前に、まず代表取締役の小野口さんの経歴とクアッドアローという会社について教えてください。おそらく、会社規模や文化で新人研修の内容も変わると思うので。

小野口:
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まず、私なのですが元々はナムコで『鉄拳』の義光、『ソウルエッジ』のヴォルドなどのモーションを作っていました。その後、スクエニ傘下のドリームファクトリーという会社に入りまして、あまりに忙しかったので仕切りなおそうと思ってAnchorという会社を立ち上げて、『UFC』を作ったり、『バーチャファイター4』に関わったりしました。
特に、自分が8割のモーションを作ったドリームキャストの『UFC』はE3(USで行われる世界最大規模のゲームイベント)で“ベストファイティングゲーム賞”をとったのは誇れることだと思っています。

ゲームキャスト:
私が大学生のとき、ドリームキャストの『UFC』だけものすごく出来が良かったと評判でしたが、あれを作っていたんですか!?
というより、あれが国内で作られていたことに驚きです。海外製だと思っていました。51EJDNS26RL
▲ドリームキャスト版UFC。なんとメタスコア88点!

小野口:
ありがとうございます。完全に国産です(笑)
その後、Anchorは兄弟でやっていたので、自分で自由にやれる会社としてアンカーのコアメンバーと共に立ち上げたのがクアッドアローです

ゲームキャスト:
3Dゲーム創成期の『鉄拳』から『バーチャファイター4』、そして現在まで……ということは、モーションに強い会社なのでしょうか。確か、『Blood Stained』のモーションもクアッドアローと聞きますが。
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▲ 『Bloodstained: Ritual of the Night』においてモーションを担当している。

小野口:
私の経歴もあって、クアッドアローはモーションの印象が強い会社ですね。
でも、実際のところは半数がプログラマーで、全員にゲーム開発経験があり、1社でゲームをまるごと作れることを強みにしています。実際、『EF-12』という自社製の格闘ゲームエンジンを公開していますね。
ゲームエンジンを作っていて、ゲームの開発環境、実行環境まで作れるのがウリです。
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▲EF-12。Steamでも配信されている。

ゲームキャスト:
会社としての主な実績を教えていただけますか?

小野口:
最近で有名なものであれば『Blood Stained』のモーションですね。実際は、仕事として大きなタイトルの重要な個所にも関わっているのですが、実は公開できないのが悩みです。

ゲームキャスト:
えっ、やった仕事が公開できないんですか?

小野口:
実際はモーションだけでなく、AAAタイトルの仕事なども行っていて仕事は多いのですが……版権タイトルは名前が出づらいですし、二次/三次請けでサポートをした場合などはそれを公表したくない会社さんも多いので、契約条件によっては発表できなかったりもします。

ゲームキャスト:
きましたね、ブラックな中小ゲーム会社の実情系!
世知辛い……では、タイトル名は明かせないとして、仕事内容で言うとどんなものが多いのでしょうか?

小野口:
今の傾向で言うと、カッチリしたゲーム作りのノウハウがない会社のサポート要望が多いですね。
今のプレイヤーはスマホでも本格的なゲームがないと食いついてくれません。しかし、Unityでプログラムを書ける人は多くても、ゲームのためのプログラムを経験して、アクション管理やゲーム管理を考えてプログラムできる人は少ない。その点で弊社のプログラマーは全員そういったゲーム製作を経験しているので強い。
さらに Nintendo Switchの人気が出たので、そちらではメモリ管理をしっかり行う必要も出てきた。Unityで使われるC#は、メモリを自動管理するのでメモリのコントロールが難しい。メモリ管理をあまり気にしないでいいようなライトなゲームはUnityで、本格的になったらUnreal Engine、それ以上なら自社エンジンでカスタマイズして作る。クアッドアローは全部できるので、ニーズに合わせて作業できるのが強みです。

<そして新人研修へ>
ゲームキャスト:
それでは、そんなクアッドアローの新人研修の話を聞かせてください。
3カ月でゲームを1本きっちり作るのが研修とお聞きして、失礼ながら思ったよりしっかりしているな、と思わされました。大手は違うかもしれませんが、基礎をやったら現場にスクリプターとして出してたたき上げるなんて話も聞きます。

小野口:
社長が現場主義だと、そういう傾向が強いかもしれないです。
ただ、私は慣れてないうちから修羅場に送り込みたくないんですよ。クアッドアローは、ちゃんとした仕事を適正な値段でとれるようになるまで物を作らせる方針です。物を作ると経歴書にかけて、2つぐらい物を作れば仕事を取れる。そこまで面倒を見ようと。

ゲームキャスト:
先ほどの仕事内容の話から想像しますと、クアッドアローには物を作る仕事がやってくるから、ということでしょうか。

小野口:
(スクリプターの)打診はありますが、その業務は現場経験にはなっても、技術の成長にはあまりつながらないと思っています。
その仕事に出せばうちはお金を稼げますが、給料を払っているのと別に新入社員にも人生があるわけですよ。仮にやめたとしてもその人の人生は続いていくので、人生の身になる研修を考えています。

ゲームキャスト:
良い話ですね……。それでは、そろそろ研修を受けた新人さんも交えて研修の様子を聞かせてください。

大山:(入ってくる)
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大山です。前職は普通のITの会社でシステムエンジニアをしていて、証券会社のオペレーターシステムをやっていました。

ゲームキャスト:
なぜ、システムエンジニアからゲーム製作に?

大山:
前職では同じお客さんのところに4年ぐらい常駐していたのですが、自分はいろいろやってスキルを伸ばしていきたいけど、同じことをずっとやって異動の話もなくて。
上司は20年同じ現場にいる状態になっているのを見て、その現場専用のスキルしか学べないと他の職場に行けなくなるので若いうちに抜け出しました。そして、ゲームが好きだからゲーム会社に行ってみようという。

ゲームキャスト:
ゲーム会社にいくことについて不安はありましたか?

大山:
経験としては、東京工芸大学のアニメーション学科のゲームコース(※現在のゲーム学科の前身)でUnityを触ってゲームを作っていたて、何とかなるだろうと思っていました。

ゲームキャスト:
なるほど、素養はあったと。実際にクアッドアローに入ってみての印象はいかがでしたか?
社長の前で悪いことは言えないと思いますが(笑)

大山:
そうですね、フレックスで10時に出社しても良いのが楽ですね(※研修期間中は厳しくしており、研修後はもう少し遅くてもOKとのこと)。
あとは、残業しなくても怒られないところですかね。残業が多い案件が回ってきたら、そうはならないと思いますが。
ライフワークバランスは考慮されているな、みたいな。

小野口:
もともと、忙しすぎたので仕切りなおしで独立した経緯があるので、クオリティ・オブ・ライフは重視していますね。

ゲームキャスト:
それ以前に、残業しないと怒られる職場にいたシステムエンジニア、という前職の状況に涙が出てきました……。
IT企業のフレックス(ただし、コアタイムがあって9時出社、早く会社に来ても早く帰ったら怒られる)を思い出して涙が出てきました。

<マッチョGoGoGoというゲーム>

ゲームキャスト:
さて、いよいよ『マッチョGoGoGo』の話に行きたいと思うのですが……企画ですね。
トレーニングメニューをきめて、放置して時間がたってから見ると筋肉が肥大化し、最終的に自分だけのマッチョが手元で育つ「放置育成ゲーム」ですね。
これは小野口さんの企画ですよね?
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▲企画書より抜粋。

小野口:
とりあえず、マッチョを出すと10万DLされるという伝説を信じて(笑)
あと、もともとクアッドアローが格闘ゲームを作っているのでリソース的に困らないという理由があります。

大山:
実際はゲームのベースは小野口さんで、作りながら相談しつつという感じですけども。

ゲームキャスト:
プログラムの上で困難などはありましたか?

大山:
Unity(ゲーム制作エンジン)のおかげで1人で実装できました。学生のときにUnityを触っていて、ボヤっとした記憶を頼りに。
昔とUnityのバージョンが変わっていましたが、困ったときはUnityでアプリ版『タタクンジャー』を作った先輩たちがいて、相談に乗ってくれたのであまり困難はありませんでしたね。
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▲モグラ戦隊タタクンジャー。PCゲームの移植作品。

小野口:
会社の方針として持ち帰りで仕事を取ってくるので、人がいます。場合によりますが、今年は社員1人をのぞいて全員クアッドアローの職場にいます。

ゲームキャスト:
なるほど。それでは開発に当たって難しかったところ、苦労などはありましたか?

大山:
ゲームのレベルデザインは経験がないとうまくいかなかったので、そこは小野口さんに意見を聴きながらやっていった感じですね。
筋トレで筋肉がどれぐらい増えるのか、やっていないときにどれぐらい減るのか、課金アイテムどういう効果があって、どういう入手手段があって、とかそういうところですね。
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▲マッチョGoGoGo企画書より。筋肉肥大の仕様はだいたい決まっているが、それを元にプレイヤーにどんな体験をさせるかのレベルデザインは苦労したという。

小野口:
レベルデザインは数値を決める作業ではなく、プレイヤーの使い方を想定してちょうどいい体験を得られるようにする作業ですね。
とりあえず、1週間ぐらい放置してから見て欲しい。放置すればするほど楽しみになる、あえて筋肉にリミットをかけない馬鹿さ加減を笑って欲しい(笑)
あとは、広告を見ると成長を早くできるのですが、酒の席でやってみて、帰るころに筋肉が肥大化して笑える速度に設定しています。
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▲放置すると、筋肉はいびつに肥大化する……!

ゲームキャスト:
何となく作るのではなく、目的をもって数字をデザインすると。参考になります。
続いてですが、作業のフローとか、初めて会社でゲームを作ったことでの苦労などはありましたか?

大山:
流れとしてはUnityインストールして、簡単に時間経過で筋肉で膨れるプロトタイプを作って、それに対して肉付けしていきました。
小野口さんに見せて、少しずつ肉付けして、与えられるモデルやモーションデータを組み込んで……という形で順調に進みましたね。

小野口:
モーションは私がやりました。実際に筋トレをやっているので、全身まんべんなく鍛えられるモーションを新規に作っています。懸垂の反動を入れているところとかリアルなのでぜひ見てください。
できれば、筋トレ大好きな人に遊んでもらって、ジムに行って「お前のマッチョどう?」って会話をしてほしい(笑)
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▲これがAAAタイトルに使われるモーションデザイナーの作る懸垂だ!

ゲームキャスト:
……なんというか、安定していますね。『プロジェクトX』みたいなドラマがない。「最初に苦労を聞いて話の山を作れ!」というのがコレ系インタビューの鉄板で、あえて苦労ばかり聞いていたのですが……。

小野口:
それで言うと、うちの会社は谷間は作らない方針だから。残業したって生産性は上がらないし、研修でやらせたいのはそういうところではないので。
その方針のもと、フィードバックは「たくさん要求しすぎない」ようにしています。リリース版になっても「ここ直したいなぁ」ってこと、言いたいところはたくさんあるんですよ。
でも、それは研修でやることではないので。核の部分だけいいましたね。

大山:
自分は「もっと言って欲しいなぁ」とも思いましたけど(笑)
そうですね、あるとすればUI系。今までゲームを作ってきた人間と、作っていない人間で、操作しやすさの感じ方が違っていたので。そこが新鮮でした。
あと、『マッチョGoGoGo』は左利き用なんですよ。「右利きの人が使いづらくないですか」という話はしたんですけど。
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▲スマホの常識と左右逆のUI。右利きの方に触ってもらって、違和感を感じて欲しい。

小野口:
そこは工数の問題で私の利き手に合わせて、あえて捨てようと最初から決めていました。一番重要なのは無理なくできることなので、スケジュールにも初期段階でそれを書いていました。
App Storeのレビューに「右手でやりづらい」というコメントが多かったらバージョンアップを考えますが、みんながどんなシチュエーションで遊ぶかというのまで想定して企画を考えたとき、どうしても直すところではないと思ったので。

ゲームキャスト:
大山さんが企画を作らなかったことを疑問に思っていたのですが、山や谷を作らないようにコントロールするために小野口さんが新人研修の企画を作り、スケジュールコントロールの苦労をしていたということですか。

小野口:
そうなりますね。

ゲームキャスト:
もっとブラックでガンガンPVを稼げるネタを想像していたのに逆の方向でびっくりしました。では大山さん、逆に良かったことなどはありますか?
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▲最初のイメージ……(いらすとや「ブラック企業で働く男性」より)

大山:
ゲームを1本完成させるまでを体験できたことが良かったですね。商業ベースの流れで物を1本作ったと。そういえば、完成してからAppleの申請がなかなか通らなくて、それが一番苦労したところかもしれません(笑)
肌の露出が多すぎるため、App Storeでの販売が受理されなかったんです。いかにボディビルディングが健全で、スポーツとして認められたもので、卑猥ではないことを必死に書いて、最後には担当者の方に納得してもらえました。
Appleの審査では男性の肌面積がでかくても、審査に落ちるんですね。

▲肌露出が理由でApp Storeの審査に落ちました

ゲームキャスト:
アプリの申請までやったんですか!?

小野口:
今回はリリースまで全部経験してもらいました。
経歴書にかけると営業に有利というのもありますが、今はどこが得意というのを縛るタイミングじゃないので。人それぞれに「周辺環境を整えたい」、「ゲームロジックがやりたい」、「AI、描画回りがやりたい」とかあるものですが、今回は全部やってもらって見極めさせようと。

ゲームキャスト:
新人研修で適性を探る、ということですね。

<話を終えて>
ゲームキャスト:
ゲーム会社にはブラックなイメージが強かったのですが……意外にそうでもない?

小野口:
もちろん、マスターアップや Tokyo Game Show の直前など、瞬間的に忙しくなることはありますが、ワークライフバランスは大事に考えています。

ゲームキャスト:
ゲーム業界昔ばなし的なネット記事や、ゲーム会社を題材にしたお話の中でもゲーム会社がブラックな扱われ方をする印象があったのですが……。

小野口:
他の会社は例を多くは知りませんが、普通は育ってもらわないと会社が困るので(笑)

ゲームキャスト:
なるほど、有名な大手ゲーム会社もかなり昔に普通の会社として整ったと聞いていますし、その流れはしっかり全体に波及していたのですね。
今日はありがとうございました。山も谷もないですが、それが逆に新鮮でした。

小野口:
はい、でもこれで終わりじゃないんですよ。
この画面を見てください。
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▲見せられなくてごめんなさい。

ゲームキャスト:
これは本格的……というか、あのアーケードゲームの××(書けない!)をリスペクトした小野口さんが好きそうなやつ!?

小野口:
ゲームキャストさんに掲載した理由は2つありまして、大山の3カ月の経験を生かして、2本目はもっと時間をかけて、ゲームキャストの読者さんがもっと楽しめそうなゲームを出そうと思っています。もちろん、完成にこぎつけるかわかりませんが……うちは2本作らせる方針なので。
そこを予告しておこうかな、と。
あとは、クアッドアローは現在人員を募集していますので、この新人研修の内容を見て興味があればぜひHPをご覧になって連絡ください。

ゲームキャスト:
最後に面白そうな爆弾を投下していきましたね(笑)
とはいえ、ゲームが作れて外に出せる研修を探しているなら良さそうです。新作ゲームも楽しみにしています!

以上。

ゲーム業界は(少なくともクアッドアローは)、思ったよりブラックではなかったようだ。
この記事と企画書の意図をくみ取って1週間放置してアプリを起動してみたり、飲み会で使ってみたり、ジムの仲間とマッチョを育ててみたりすると面白いアプリなので、開発者の想定を念頭に入れていろいろいじってみると、きっと興味深くゲームができると思う。
また、左手用のUIを体験して本当に使用用途に問題がないのか、などを確かめて、プロの企画意図、研修の意図を感じられるはずだ。
そして、ゲーム制作に興味がある方、ゲーム企画の意図を感じてみたい方などは、ぜひ『マッチョGoGoGo』を遊んで、アプリのレビューで大山さんに感想を送ってあげて欲しい!


アプリリンク:
マッチョ GoGoGo (itunes 無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)