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悔いの多い人生を過ごす人へ。後ろ向きに生きる青年の再生物語『潮騒の街』レビュー

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都会の生活に疲れて心が枯れ、海辺の街で貯金を切り崩しながら生活する青年を描いたアドベンチャーが『潮騒の街』を紹介する。
本作は疲れた人間の再生を描く優しい物語……なのだが、人生に疲れた青年の後ろ向きな描写が真に迫っている点で他と一線を画している。このあたり、クズの人生を描いた『償いの時計』、不気味な夢を描いた『しあわせのあおいとり』作者であるDaigoさんの本領がいかんなく発揮されていてか、「後ろ向きな生活」にものすごい説得力があるのだ。
そして、その説得力がリアリティを生み、プレイヤーに癒しを与える不思議な作品だ。

本作の舞台となる海辺の街は、心に傷を抱えた人々で満たされている。
主人公の青年は都会の生活に疲れ、潮騒の街で無為に時間を過ごしている。そして、そんな青年の隣の家の家族は、幼い娘をなくした傷から立ち直れていない。
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田舎町の環境は変わらず、人々と深く関わることもなく、青年の時間はただ過ぎていく。
普通の人生を送り、外部から青年を気にかける兄に対しては苦手意識をもち、何となく疎んじている。
過去に思いをはせて暮らす青年の姿の描写は秀逸で、後悔のある生活をしている人間、人生に疲れつつある人間にとってぐっと心に来るものがある。
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さて、そんな無為な生活を送る青年が生きているのには訳があった。
青年には幽霊を見る力があり、2年前に死んだ少女がいまだに幽霊となって本を借りにくる。彼女に本を毎日貸し出す。それだけを日課としているのだ。
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青年は後悔の多い人生を送り、これ以上失敗することを恐れて生きている。
しかし、この幽霊とのかかわりが、ある日青年の生活を変えていく……。
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短い物語なので序盤だけをざっと紹介させてもらったが、ゲームとしては気になる場所をタッチして青年を移動させ、人と会話したり物を調べたりしてストーリーが進むゲームである。
謎などはなく、本を読むかのようなペースで物語を楽しめる。
その物語の中でも前半における「後悔で身動きの取れない青年」の描写はぐっとくるものがあり、大きな説得力がある。
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青年の姿はソフトに現実で悔いを残す生活を送るプレイヤーに問題提起をしており、人生を考えてしまう説得力がある。プレイヤーが青年と自分に重ねられるなら、その姿を見る前半だけで本作には意味がある。
私自身のことを言うなら、自らの人生を考えるきっかけにもなり、少し涙が出てしまった。
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▲ゲーム終了後、制作経緯が見られる。2010年の自己啓発ブームの疲れで制作という流れが世代なので共感できる。

ただ、疲れ切った青年の描写をリアルに感じる一方、再生の工程が簡単すぎご都合主義「お涙頂戴」を感じてしまい、後半に少し拍子抜けしてしまったことも書いておきたい。
良い物語だし、ホロリとくるものはあるのだが、前半の描写と重さが釣り合っていない(青年を癒す役どころの動きが理解できない)ように感じた。読み終わったとき、前半の心の枯れ方と同じぐらい再生に納得感があれば、飛躍的に良く感じたかもしれないという気持ちになってしまった。

とはいえ、前半部分だけでも人間の心に爪痕を残す描写があり、人間関係に疲れた人、人生に後悔を残している人ほど遊んで欲しい「後ろ向きのおすすめ作品」である。
枯れた人間を見て自らのことを考えることが、ある種の振り返りと癒しになるとは思わなかった。

評価:6(面白い)

ゲーム概要
見下ろし視点で物語を見るゲーム風ノベル

おすすめポイント
枯れた青年の描写
時間が止まった街と問題を抱えた人々の解決

気になった点
青年の後悔の描写に対して、再生の工程が軽い

アプリリンク:
潮騒の街 (itunes 無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)

開発:Daigo(日本)
原作:imcyan(日本)
レビュー時バージョン:1.0
課金:広告削除120円
公式ページ:http://blockbros.net/shiosai/ja/
ライター:ゲームキャスト トシ

動画: