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不当表示で消費者庁に措置命令を受けた『THE KING OF FIGHTERS '98 UM OL』返金裁判、運営元におとがめナシのうやむやの決着

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『THE KING OF FIGHTERS '98 ULTIMATE MATCH Online』(以下、KOF98 UMOL)のガチャにて、バナーに表示されている確率よりも、実際に排出される確率がはるかに低く見える不当表示を巡り、返金を求めた裁判が決着し、原告Tomasさんのブログで裁判が和解に至ったことが発表された。
今回のKOF訴訟についてのご報告

最初の情報からかなり時間がたってしまっているので、今回は順を追って説明していこう。
今回の裁判は、『KOF98 UMOL』のガチャキャンペーンで目玉キャラクター“クーラ”の排出率が、バナーから読み取れる確率より実際の確率が著しく低いという事件があり、有利誤認させる“不当表示”が疑われたことに始まる。
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▲出現確率3%と記載があるが、実際の確率は0.333%。訴訟後に消費者庁によって有利誤認と認定され、『KOF98 UMOL』には措置命令があった。

これに不信を抱いたTomasさんは、『KOF98 UMOL』の特定商取引法(特商法)の表記に責任者として表記されていた“OURPALM株式会社(代表:石渡章博/東京都港区)”に対して返金を求めて内容証明郵便を送る。
すると、『KOF98 UMOL』のサポートメールから返金の案内があったが、その前段で誠意のない対応をされたため訴訟の決意を固めた。
内容証明郵便を送ってサポートから返事があったこと、同じ住所に存在する“CTW株式会社(代表:佐々木龍一/東京都港区)”の佐々木龍一さんが『KOF98 UMOL』の公式サイトのドメインを取得しており、石渡章博さんがCTWの副社長を務めていることから、Tomasさんは特商法に住所として示された“OURPALM株式会社”を訴訟先とした。
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▲旧来の表示。オンラインゲームなどは、特商法によって住所や電話番号を記載することが義務づけられている。

ところが、裁判で主な争点となったのは、「有利誤認に対する返金」ではなく、「被告がアプリの運営主体か否か」だった。
被告はゲームのサポート・運営には関わっておらず、『KOF98 UMOL』の運営元は中国にある“Ourpalm Co., Ltd.(代表:エイミーリウ/北京)”(以下、中国OURPALM)であり、CTWと“OURPALM株式会社”のどちらも運営とは関係がないと主張したのだ。
また、この時期に『KOF98 UMOL』の公式サイトでは、特商法の表記にある会社所在地などが誤っていたとして、訂正を行っている。
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では、“OURPALM株式会社”とはなんなのか。偶然に名前が似ていただけなのかというと、そうではない。“OURPALM株式会社”とは、もともと“中国OURPALM”とのビジネスのため作られた会社だったのだ。
CTW代表の佐々木龍一さんは、もともと“中国OURPALM”と個人的なつながりがあり、合弁会社を作ってビジネスを提案しようとしていた。その提案をスムーズに行うため、“OURPALM株式会社”という名前の会社を登記したという。
ただし、このビジネスは立ち消えて“OURPALM株式会社”は休眠会社となっていた。

また、ゲーム公式サイトの“ourpalm.co.jp”のドメインを“OURPALM株式会社”が取得していたのは、「中国法人からの個人的な依頼を受け、佐々木さんが代理で取得したもの」であり、訴訟を提起されるまで知らなかったとのこと。
いずれもCTWと関係なく個人的な関係で動いていたようだ。
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▲CTW代表の佐々木龍一さんがドメインを取得していたため、ゲームとCTWに関係があるものと思われていた。

しかし、“中国OURPALM”が立ち消えたビジネスのために作った会社名、所在地、取得ドメインをが勝手に使ってしまったため、今回の訴訟になってしまったという。
石渡章博さんはこれについて、訴状が届くまで自分たちの名前がゲーム公式サイトに記載されていたことは全く知らず、“中国OURPALM”に対して「怒りの気持ちがこみ上げてきたのを覚えています」と語ったことが記録されている。

この反論に対して、Tomasさんは“OURPALM株式会社”もゲーム運営やサポートに関わっていたのではないかと主張していたが、結局は和解してブログで「被告が実際の運営者ではないことや(略)経緯について、私なりに理解・納得することができました」と報告。
“OURPALM株式会社”とCTWに対し、「多大なる迷惑をかけてしまっていた」として謝罪している。

最終的に、
・Tomasさんのブログに謝罪記事を掲載
・訴訟の動きについて報じたメディアにTomasさんの謝罪記事の紹介を求める
・被告は「ourpalm.co.jp」のドメインを今後使わないよう中国側に求める
・お互いにこれ以上の法的請求を行わないこと
・CTWと佐々木龍一さん個人が準備しているTomasさんへの訴訟をやめる
などの条件で和解している。

当初、Tomasさんは「徹底的に戦って判例を作る」という意気込みであったが、この記録を見たところ訴訟リスクを避ける判断が働いたものと推測される。
佐々木龍一さんがTomasさんに対して、風評被害による損害賠償(1日あたり約41.6万円)を求めるメールを送っていたこと裁判記録に残っているだけでなく、仮に2箇所から訴訟されることとなれば、Tomasさんから見て遠隔地の東京に何度も召喚されることになり、個人では支えきれない負担になることは予想に難くない。

以上が、『KOF98 UMOL』裁判の始まりから決着までの流れとなる。
ただ、裁判は終わったが、この結果には多くの納得いかない点が残る。

“OURPALM株式会社”に内容証明郵便が届いて即日に『KOF98 UMOL』サポートから返金の案内が届くほど“中国OURPALM”と“OURPALM株式会社”は連携していたのに、ドメインや住所が使用されていたことに気づかなかった点などもそうだが、何より気になるのは本来の争点であった“不当表示による返金”の問題がうやむやになってしまったことだ。

中国OURPALMは消費者庁から不当表示で措置命令を受けたにも関わらず、記載ミスのために裁判の訴え先が変わってしまい、返金訴訟から逃れているのだ。また、記載ミスで特商法に違反しているが、これに関してもおとがめなし。それどころかしれっとテレビCMなどを流している。
Tomasさんの謝罪記事の最後には、
ユーザーというか消費者の方々には、「特商法に基づく表記に載ってても違う人かもしれない」とか、「住所や電話番号書いてあってもそれは間違いの可能性もある」ということを念頭に、インターネットの世界を楽しんでもらえれば、と思います。
とあるが、海外の会社がこういった悪質な表記や、責任所在の表記ミスを行って不当表示をしても裁判を逃れられる(引き延ばせる)前例ができてしまった。
また、現在は中国をはじめとして海外のソーシャルゲームは詳細確率を表記しないなど、日本で一般的になりつつある消費者保護への配慮を無視することも多い。
これに加えて特商法違反もおとがめなしとなると、やりたい放題されすぎになってしまうのではないだろうか。

今回、Tomasさんの裁判が『KOF98 UMOL』へ世間の注目を集め、結果として消費者庁に措置命令を出させる一助になっていると推測される。その点では裁判の目的は半分程度達成されているのかもしれない。
しかし、同時に海外運営のゲームに手を出すことのリスクの高さを改めて見せつけ、なんとも課題を残したまま裁判は終わったと言える。