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絵の発想力、感性を養うゲーム『Art Club Challenge』レビュー。制約の中でお絵かきを楽しむ挑戦

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ゲームを遊んでいるだけで、抽象画を見る目が養われて、イラストの構図を考える力が養われると言ったら、興味がわかないだろうか?
米国スミソニアン博物館のアートアーケードイベントで展示された『Art Club Challenge』は、まさにそういったゲームなのだ。
たった4色の色と、四角形を張り付けるツールだけを利用し、ピエト・モンドリアンのような抽象画を描くことで、プレイヤーを楽しませながら訓練する。少なくとも私にとってはそうだった。
本作はストーリーモードと、お題に沿ったイラストを描くチャレンジモードの2つを備えたお絵かきゲームだ。全編英語だが、イラストを描くときのお題とイラストの条件(短文)だけ読めればいいので、高校生なら十分に遊ぶことができる。
チャレンジモードはお題のイラストを描くだけなので、ここではストーリーモードの流れを紹介していこう。ストーリーモードとは、ちょっとしたガイドに沿って連続してイラストを描くモードである。
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▲ストーリーは読み飛ばしてもオーケー。

そして、少しガイドが進むとお絵かきタイム。
最初にでっかいキャンバスが表示されるが、何と利用できるのは赤、黄、黒、青の4色だけ。もちろん、混ぜ合わせて新しい色を作ることもできない。
「Warm Forest(暖かい森)」というお題に対して早くも安直な葉っぱ色……つまり、緑色が封じられている。
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しかも、色を選択して画面をタッチするとでっかい四角が画面に出てしまう。筆ツールが存在せず、利用できるのは四角だけなのだ。
2本指で縦横を拡縮し、色付きの正方形や長方形を作ってそれで絵を描くしかない。
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とりあえず、森につきものの泉から青い四角の組み合わせで描いてみる現実逃避。
黄色は太陽の照り返しのつもり。赤はリンゴ系の木の実が落ちているようなイメージ。
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これで、使っていない色は残り黒だけ。しかし、黒だけで暖かい森というのは……うーん。
そうだ、紅葉だ!秋の森ってことにすれば黄や赤の色は葉っぱにできる。
ということで、突然勢い込んで資格を切り貼りして、「結構アーティスティックなのでは?」と自負できるイラストが完成した。これで、ベルボタンを押せば終了だ。
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▲アーティスティック(自分基準)

が、イラスト完成のベルを押せない。
不思議に思って調べてみると、イラストにはタイトル以外に3つのお題があって、Warm Forestでは「四角が重なりすぎていない」とか、「一定の面積を塗っていないといけない」とかの制限があった。
今回は四角を重ねすぎてしまったようだ。
仕方ないので、四角の重ね方を変更して完成へ。
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▲湖に浮かぶ葉っぱを削除し、木に茂る葉っぱも簡略化

で、イラストが完成するとネットにアップロードするか選択できて、他のプレイヤーの描いたイラストとも比べることができるのだが……これが、めちゃくちゃ面白い。
制約の中で苦労した課題を、他のプレイヤーがどのように乗り越えたのかみるだけで時間がどんどん過ぎていく。
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これは普通に力作。人間がいるだけでサイズ感がわかるのが良い。
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感心したのはこれ。高い木の下にいる設定で幹と葉っぱだけで表現したのか!
ただ見るだけではなく、自分で描いたあとだから感心できる。
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TwitterやPixivなどで、自由なツールで自由に描かれたイラストを見るのも楽しいが、『Art Club Challenge』には極端なまでに制約に縛られたイラストを見られて、また異なる良さがあるのだ。
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▲モナリザ。

一通り堪能したところで、続いて“青い鳥”のお題をこなし、“赤だけで表現する遺跡”を描きゲームは続いていく。
私自身のイラストを描く能力は低いのだが、四角の寄せ集めでイラストを描くとそれなりに見えるのが不思議。また、イラストを描く時間コストも低いのも忙しい現代人に嬉しい。
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▲青い鳥。自分が良ければいいのだ。

これだけでも楽しいのだが、ストーリーモードを続けるうちに私の中に変化が起きた。
ストーリーモードでは、抽象的なもの、比較的抽象度が低いもの、色遣いに無理がある設定などのお題が順番に登場する。
そういったお題をこなし、他のプレイヤーの作品と比較しているうちに、抽象的な画を見る目が変わってきたのだ。それまでは単なる四角だったものが、「これは崩れかけの建物だ」などと、自分が描き、悩んだときの経験をもとに想像できるようになってきたのだ。
これまでは「レトロチックな画かな?」などと思っていた線の集合イラストも、鮮やかな風景に見えるようにも感じるようになってきたのである。
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▲これも森。ほんと、いろいろな描き方がある。

ストーリーモードは単に抽象画を描き、見比べるだけでなく、プレイヤーの認識力を拡張するように作られていたのだ。
私の絵画に対するアンテナ感度が低かったから成長できた……というのもあるかもしれないが、少なくともこのゲームに出会えて絵の見方が少し変化したことが嬉しい。
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いわゆるゲームゲームした作品ではないが、プレイヤーの発想や認識力を拡張させる試みや、新しさもあり、とても楽しめた。
イラストが達者な方に見せれば、また違う感想があるかもしれないが、少なくとも私にはそういうゲームだった。

現段階ではイラストの検索機能が弱いのは気になるが、芸術の世界に触れたい一般人、様々なイラストを見たい方、自分の発想力を試したい絵描きさんなど、さまざまな方にお勧めできると思う。
コンセプトを聞いてピンときたら、ぜひ試してほしい(特にiPadで)1作だ。

評価:7(要チェック)

おすすめポイント
発想力や想像力を刺激する抽象的な絵描きツール
ムーディーな音楽
他人のイラストを見るのが楽しい

気になるポイント
イラスト検索機能がいまいち。
日本語非対応

アプリリンク:
Art Club Challenge (itunes 480円 iPhone/iPad対応)

開発:Polytundra(US)
公式ページ:http://polytundra.com/
レビュー時バージョン:1.0.1
課金:なし

ライター:ゲームキャスト トシ