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オープンワールドを捨てて物語を得た『ファイナルファンタジーXV ポケットエディション』。1本道RPGにも、また良さはある

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PS4の性能を活かしたリアルなグラフィックと、FFシリーズ初のオープンワールド(自由に探索できる広大なフィールド)導入で話題になった『ファイナルファンタジーXV』(以下、FF15)。
そのFF15のストーリーを体験できるよう、スマホ向けに再構築されたゲームが『ファイナルファンタジーXV ポケットエディション』(以下、FF15PE)である。
スマホの性能を考慮してか、オープンワールド要素は廃止されたが……意外にも、それで得るものはあった。

原作からの変更点は多岐にわたるが、とくにグラフィックは大きな変更が行われている。
キャラクターはスタイリッシュなデフォルメを施され、まったくの別物に。ただ、それ自体は悪いことではなく、むしろ新鮮な印象で魅せることに成功している。
表情が動かないことは気になったが、素晴らしいボイスアクトがそれを補って感情を付加している。
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▲字幕だけで遊ぶと会話シーンの盛り上がりに欠けるので、音声を聞ける環境で遊びたい。

風景もそれに合わせて変化しているが、これはこれでミニチュアのようで良い。
街のグラフィックや印象的な場所のセットはきっちり作りこまれており、決して手抜きではない。
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ゲーム機版との比較動画を見れば、原作の再現という点でも労力がかかっていることがわかる。


システム面に目を向けると、オープンワールドはなくなり、物語上で必要な部分だけを抜き出した一本道のRPGに作り直されている。
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▲一度クリアしたチャプターはいつでも戻れる。チャプターのアイコンがそれぞれに印象的。

オープンワールドを連想させるような豊富なサブクエストも、寄り道要素はほぼない。
料理の素材集めや、街に隠されたサボテンダーを探すミニゲームはあるが、あくまでおまけだ。
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▲材料を集めて料理。素材はミニマップで在りかが示されるので取り逃しなし。

オープンワールドがなくなった一方で、得たものもある。それは、ストーリーへ没入できるゲームのテンポだ。
オープンワールド系とストーリーは相性が悪い部分があり、オープンワールドの自由散策が楽しいほどメインのストーリーが希薄になる。例えば、「急がないと街が攻め込まれる!」なんてときに寄り道しまくっていると、メインに戻ってもストーリーの緊迫感が薄れていたりする。
FF15PEは無駄に複雑なダンジョンも単純化し、テンポよく1本道を進めるよう再構成されている。これによって、より物語を楽しめるようになった。
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1本道でもストーリーがスカスカだと問題になのだが……FF15についていえば、見る価値はある。
先行したゲーム機版では賛否両論でたし、実際に仲間キャラクターのバックボーン掘り下げ、明かされない行動の理由など、気になる点は山ほどある。しかし、気になって話題にしてしまう程度には感情移入できるのは間違いない。
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FF15は、王子ノクトが護衛の3人とともに旅立ち、真の王としての自覚を得てゆく決断の物語だ(成長の物語とは少し違う)。
FF15発売前は「ホスト4人がサファリパークで車を乗り回す」なんて言われもしたが、実際にプレイしてみるとノクトにはぼんぼん感が出ていて良いし、男だけで旅する“男旅”的なノリも気持ちいい。
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▲今回はヒロインとは旅をしない。ただし、頻繁に手紙をやり取りしていたり、回想でたびたび登場してくることもあり、存在感は大きい。

演出としても光るものがある。
街と街の移動はドライブとして表現され、その間にプレイヤーは自動運転(視点を切り替えたり、車線変更はできる)中にキャラクターたちは会話をする。
この演出は退屈な会話をロードムービーのワンシーンのように見せることに成功している。
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また、歩いているときもバトル中も、各キャラクターが進行状況に合わせた雑談を行ってキャラクターを掘り下げる。これはオープンワールドでキャラクターを立たせるために作られた演出だが、一本道RPGになっても有効に働いている。
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▲移動中、バトル中、つねに何かしゃべり続ける。会話パターンが豊富なのもよし。

賛否両論あるFF15のストーリーを抜き出し、良い演出を継承し、物語に集中できる構造でそれを固める。FF15PEはゲーム機版から要素を削り、引き算してできたスリムなFF15として機能している。
一方で、プレイしながらも「惜しい」という感想がぬぐえなかった。
引き算で新しい良さを作り出した半面、足し算……FF15PEになって得たものはスタイリッシュなディフォルメキャラクターだけなのだ。

物語面で見ると、ゲーム機版では前半にオープンワールドが用意されており、オープンワールドで遊ぶほどに後半の物語に活かされる仕掛けがとても良かった。
一方で、ときおり不自然なほど物語の掘り下げが省略されており「製作期間が間に合わなかったのか」などと思いながらプレイする羽目になっていた。
オープンワールドの良さをなくして物語に集中する構造のゲームになるなら、足りない部分を追加する足し算もできたのではないか。
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▲良い意味でも、悪い意味でもゲーム機と同じストーリー。

また、バトルも気になるところだ。
ゲーム機版も「アイテムを使えばごり押しできる」バランスで、バトルに食い足りなさはあったが、スマホ版はバトルを簡略化しつつその食い足りなさを継承してしまったのだ。
本作のバトルはほぼオートで、何も触らなくても仲間はAIで自動行動するし、主人公も基本的な行動はこなしてくれる。
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主人公は“シフト”という高速移動して敵を攻撃する能力を持っており、敵を長押しするとMPを消費してシフト攻撃を行える。タイミングよくシフト攻撃することで、敵の体勢を崩してWEEK状態(一定時間大ダメージを与えられる)にしたり、攻撃を避けることができる。
が、バトルのバランス自体がぬるくてシフト攻撃するメリットが薄い。さらに、演出的にもあっさりめで効果もそこまで実感できない。つまり、スマホ版のバトルは面白くない。
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ただ、それでも序盤は良かった。
ノクトのシフト能力を利用し、簡略化されたバトルながらも要所で面白い仕掛けを入れて退屈さを減じていたからだ。
たとえば、敵の死角にワープして暗殺していく仕掛けや、バトル中に高所にワープして戦うような演出は序盤の華だ。暗殺でバトルせずに敵を倒し切ったときなど、かなり爽快である。
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▲魔道アーマーの攻撃を避けて鉄塔へ!

シフトで砲台を占拠し、敵を撃つシューティングに変化することもあった。単純なシステムだったが、この変化も楽しかった。こういった演出が多いうちは、バトルは単調でもアトラクション的な楽しさがあった。
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しかし、後半に行くほどに仕掛けがなくなり、このワクワクが減じていく。
テンポを重視してかバトル回数も引き算されており、飽きて投げ出すほどの問題ではない。しかし、もう少し工夫があれば、もっと面白かっただろうにとも思う。
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▲QTEバトルも。かなり頑張っていることは伝わるが……中盤ぐらいまではかなり良い。

結果として、FF15PEはスタイリッシュなディフォルメキャラによる、賛否両論の尖った物語を持つ普通のRPGという存在で落ち着いている。
もう少し何か付け足してくれれば物語以外も楽しめたはずだが、現状は物語が合えば楽しく、そうでなければ1本道で単調なRPG。
つまり好みの問題なのだが、本作は物語がメインなのでネタバレすると面白さも損なってしまう。そこで、「スカッとする娯楽映画的なものではない」とだけ書いておく。
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▲そういえば、ディフォルメになってシドニーのお色気も消えた。でもかっこよく見えるようになった。

価格は全チャプターを一気に買うと2,400円、個別にチャプターを購入すると最大で3,600円。ただし、最初のチャプターは無料で体験できるので、プレイしてから判断を下すことができる。
最初のチャプターで1本道の展開(物語ではなくシステム的な)を完全に体験できるので、チャプター1が面白いと思えば買って損はないと思うし、合わなければ買わないで済ませていい。
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▲チャプター1で見極めきれないと思ったときも、チャプター2と3は120円と格安で試せる配慮もある。

最後になるが、このゲームを遊んで改めて実感したことがある。ゲーム機版のFF15は、オープンワールドとストーリーゲームであることを両立させる和式オープンワールドの模索だった。
通常、オープンワールドでの出来事はRPGのメインストーリーと切り離されていて、自由な散策になっている。しかし、FF15はその散策にストーリー的な意味を持たせるために作られていた。
FF15PEには整理された良さがある。しかし、西洋オープンワールドとのアプローチの差を感じる意味で、ゲーム機版を遊んで欲しいとは思う。

ただ、PS4を持っていないならFF15PEは物語を体験する良い機会だし、FF15のファンには物語を追体験する機会となる。
私はゲーム機版を体験しているが、テンポよく進むのでFF15PEのプレイは飽きなかったし、これを遊ぶことで改めて序盤から中盤までを整理できてよかったと思っている(ただ、やっぱり最後の仕掛けには「オイオイ」と思ったが)。

評価:6(面白い)

おすすめポイント

王子の決断の物語(やや暗い)
1本道になってテンポアップ
スタイリッシュなディフォルメ

気になるポイント
物語に説明不足や粗を感じる
オープンワールドが消えた
キスシーンは蛇足
物語が合わなければ退屈

アプリリンク:
ファイナルファンタジーXV ポケットエディション (itunes 体験無料 iPhone/iPad対応 / Google Play)

開発:スクウェア・エニックス(日本)
レビュー時バージョン:1.0
課金:チャプター購入(全チャプターで2,400円)
ライター:ゲームキャスト トシ

動画:


※当初、原作にホモホモしさがあったように書いていましたが、ゲーム機版の写真の個人的な思い出だったので削除しました。