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青と黒、大正浪漫と異国情緒を合わせもつ世界に生きる『From_.』レビュー。若い才能と勢いを感じる作品

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「自分が憧れる配信者の方に、自分のゲームを実況してほしい」
そんな動機からゲーム製作の道に入ったニューウェイブ開発者なかじまさんが、ビジュアルからプログラムまで1人で作り上げた完全オリジナルのゲームが『From_.』である。
率直に言って、このゲームは非凡だ。これまで存在したどのゲームとも一線を画した世界観を持っている。
音楽の使い方や物語については浅い部分もあるが、若い勢いと才能を感じる作品だ。

プレイヤーの操作する男は、水上に浮かぶ“水の国”と呼ばれる世界で郵便屋をしている。
毎日、手紙を預かって船を操り想いを人に手渡すのが仕事である。
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男は1人ではない。
男の背後には、まったく幽霊のような「何か」がつきまとっている。
しかし、それが何なのか男にはわからない。記憶を失っているからだ。
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見た目も設定もミステリアスな世界と、背景が気になる男の設定。
さらに、外を探索すれば常に雨が降る廃屋に住む男や通行禁止の場所など、狭いフィールドに不思議なものだらけ。
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大正時代のようでいてヴェネツィアのようでもある……そして、同時に狭く閉じた世界は『LIMBO』のような閉塞感も感じる。とにかく、異質で不穏。この世界は強烈に魅力的だし、他にないもので、賞賛に値する。
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この世界でプレイヤーは手紙を運び、人間の間に起こる出来事を通じて幽霊のような「何か」の秘密を知っていく……というのがゲームの流れとなっている。
本作を分類するのであれば、タッチした場所を調べる普通のアドベンチャーゲームなのだが、プレイの感覚としてはノベルに近い。水の国は自由に移動できるが、常に次に行くべき場所は示されるし、分岐も存在しない。
とは言え、物語を語るゲームであるからそれ自体は悪いことではない。魅力的なビジュアルと不思議なスポットを提示できている時点で、ゲームにした意味は大いにある。
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だが、本作はその世界で語るストーリーに難を抱えている。
ゲームの物語というのは、人々の行動や世界の流れを通じて伏線などを多重に張ってテーマにつなげていくことが多い。というのも、物語に感情移入して、事例を交えてテーマを体験させないとあまりに言葉が軽くなる。
本作については、それができていない。とても厳しい言い方をすると、未熟な携帯小説のように直接的な物言いで、深みを感じられなかった。
終始存在感を主張している曲(曲自体は良いのだが……)が、単調さを増幅している。

『From_.』は素晴らしい世界観を持つが、作品のコアとなる物語が単調で多くの人には勧められない。
しかし、ストーリーや演出の端々からは、郵便を通じて「伝える」ことを軸にして、作者の語りたいメッセージが伝わってきた。
世界観と伝えたいメッセージも、ゲーム内容もリンクしており、若い作者のだわりは痛いほど伝わる。
1人で作り上げ、迷いなく統一された世界観は本当に高く評価しているし、その世界観のために買わずにはいられなかった。
プレイ後の今も、作者の若い主張とも言えるまっすぐさには好感を持っているし、買って良かったとは思っている。

そして、もう1つだけ言えることがある。
『From_.』の評価は基準点の5点とするが、私はこの作者の次回作には今回の作品以上に期待を持っている。
全部平均点のゲームの伸びは期待しづらいが、一部が半分が100点、半分が10点という作品は残りの欠点を補うだけで急激に伸びる。
『From_.』からは妥協なく自らの求める世界を作る意思を感じたし、半分それは成功している。ならば、本作を作った若い開発者の次回作はもっと素晴らしいものになるだろう。

評価:5(楽しめる)

おすすめポイント
青と黒だけのビジュアル
独特(本当の意味で!)の世界観

気になるポイント
主張しすぎるBGM
単調な物語

アプリDL:
From_. (itunes 360円 / GooglePlay)

開発:なかじま(日本)
レビュー時バージョン:1.0
課金:なし

ライター:ゲームキャスト トシ

動画: