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オールドゲーマーの必読書。『セガ vs. 任天堂 ゲームの未来を変えた覇権戦争』3つの魅力

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セガがかつてゲーム機を販売し、市場の半分以上を握っていた時代がある。ゲーム機市場を制覇していたことがあるのだ。少なくとも、USにおいては。
『セガ vs. 任天堂 ゲームの未来を変えた覇権戦争』は、任天堂やセガのスタッフ200人以上を取材し、弱小メーカーに過ぎなかったセガが任天堂に仕掛けたゲーム機戦争の内幕を明かたノンフィクション小説だ。

その中身はセガと任天堂の政治的な内幕にまで迫っており、驚きの連続である(なんせ、ソニックの生みの親、中裕司さんの当時の給与額まで書いてある)。
また、単にゲーム系小説としてみても非常に面白い。
業界にどっぷりハマっていたスーパーファミコン・メガドライブ世代必読の書と言える。

本書は、セガ・オブ・アメリカ(SOA)の社長であるトム・カリンスキー氏の視点をメインとした群像劇の小説として描かれる。
上巻の最初の主人公は、任天堂アメリカの荒川實氏。アタリショックで荒廃したUSのゲーム市場を任天堂が建て直して90%ものシェアを握るまでが描かれており、これ単体でも十分に面白い物語である。

任天堂の物語が終わる(しばしば視点は交代するが)と、カリンスキー氏が登場する。
先に描かれた荒川氏の圧倒的な手腕により、小売りもゲームメーカーも任天堂の味方。8bitハードで失敗したセガには興味も持ってもらえない。
そのような逆境から、素晴らしいスタッフを集めて隙間を突く広告戦術を展開し、任天堂のやり方に不満を持つEAを口説き落とし、ついには市場の過半数を握る物語が上巻で描かれる。

しかし、セガの栄光は長く続かない。現代においてセガがハード事業を行っていないことでもわかる通り、セガは失敗するのだ。
下巻では32bit次世代機を巡っての複雑な政治的駆け引きが行われ、成功しすぎたSOAと日本側の対立が深まり…そして、ソニーが出現し、カリンスキー氏は退任して物語は終了する。

この本の魅力は3つある。
まず、単に業界物語として面白いことだ。
任天堂がゲーム業界を再興する物語と、弱者が強者を食う痛快な逆転劇(ただし、任天堂もまた素晴らしい人材をそろえた強力な企業として描かれている)は、そもそも物語として面白い。
そして、下巻。任天堂が王道を行き、セガが王道の隙を突いてのし上がる。それぞれの企業哲学とマーケティング施策の差が年単位の時間を経て結果を示す。通してみると、戦記物小説のような面白さも味わえる。

2つめの魅力は、ゲーム機戦争の舞台裏をアメリカ側の視点から(おそらく、かなり真実に近い内容で)書いていることだ。
ざっと挙げるだけでも以下のような情報がほいほい出てくる。
・ソニックの生んだ後、中裕司氏は給料が低すぎてセガを退社していた。
・マリオの映画は、なぜこけたのか詳しく描かれる。
・SFCを再び強者とした『スーパードンキーコング』誕生秘話。
・セガがソニーやSGI(N64のチップ制作)と手を組んで次世代ゲーム機を出す方向性を模索していた。
これだけでも、買う価値を感じる方は多いのではないだろうか。

そして、最後の魅力は…日本のセガファンだけが抱くであろう奇妙な感慨である。
本書がアメリカ視点の小説ということはあるが、日本側がSOAの立役者を追い落とした形で終わる。
だが、その後の日本はどうなっただろうか。
皮肉なことに、カリンスキー氏が去った後も彼(とスタッフ)の功績は日本のファンの支えとなった。
ゲーム雑誌では「海外ではセガが勝っていた」などと書かれ、セガサターンの次世代機であるドリームキャスト時代になってもそれは続いた。

本書において、日本のセガの事情は説明されない。
一方的に「SOAの成功を妨げる会社」として描かれるので、その分は差し引かないといけないだろうが、それでも私は読後にやるせない気持ちになった。
「海外では勝っていた」などと言ったことがあるセガファンは、その内幕を知るべきだろう。

本書は早川書房の厚い本を買っても読めるが、Kindleの電子書籍としても販売されている。
少しお高いが、内容を考えれば当時のセガファンなら押さえておくべき本と断言できる。
そうでなくとも、雑誌を隅々まで読んで情報を探していたようなオールドゲーマーには十分な価値があるだろう。
ぜひ、血眼になってゲーム情報をあさっていたあの頃を思い出し、夢中になって読んで欲しい。

関連リンク:
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セガ vs. 任天堂 ゲームの未来を変えた覇権戦争・下(Amazon)