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結末がわかるからこそ心を打つ。幼子の死を看取るアドベンチャー『That Dragon, Cancer』レビュー

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人間の心を打つのは、驚きの結末が待つストーリーだけだろうか?
いや、違う。あらかじめ結末がわかっているからこそ、心を打つストーリーもある。それが、『That Dragon, Cancer』だ。
日本語に直すと『癌という名のドラゴン』とでも言うべきだろうか。

このゲームは、癌に冒され、幼くして亡くなった子供の一生を描くアドベンチャーである。つまり、結末は死しかあり得ない。
しかし、癌という名の恐るべきドラゴンに立ち向かう親子の様子は、あなたの心を強く動かすはずだ。

ゲーム開発者のライアン・グリーンさんは、ある日衝撃的な告知を受ける。まだ4歳の息子、ジョエルくんは悪性の小児ガンによって残り余命が4ヶ月だというのだ。
ライアンさんは、息子の人生と向き合うため、ジョエルくんが死ぬまでの記憶を2時間ほどのアドベンチャーゲームとして凝縮した。そのゲームが、『That Dragon, Cancer』である。
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ゲームは、ジョエルくんが鴨に餌を与えているシーンから始まる。明るい公園で、父親と話しながら餌を与えている姿は幸福そのもの。
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だが、そのスタートが幸せの頂点。ジョエルくんのガンが発覚し、グリーン夫妻の生活は一変する。
絶対に治らない癌にかかってしまった息子と
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本作はポイントクリック型のアドベンチャーであり、プレイヤーが道を進むか、気になるものを調べていくと時間が進み、シーンが進む。
各シーンではジョエルくんが無邪気に過ごす様子を見たり、苦難に満ちた癌との戦いを比喩的な表現で描く。
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そして同時に、ジョエルくんを愛し、悩み続ける家族の様子が描かれ続ける。
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本作のグラフィックは全体に暖かい空気感に満ちており、ジョエルくんの無邪気な声やしぐさが映える。
その裏で、悲痛な声を漏らし、最後まで愛をもって接するグリーン夫妻の姿は心を打つ。
プレイヤーは、ジョエルくんとグリーン夫妻の幸せを祈らずにいられないだろう。

だが、闘病生活の末、ジョエル君は天に召される。
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画面の中で、プレイヤーが何を操作しても結末は変わらない。ゲームを進めるほどに、最後の時は近づいてしまう。
そして、それは末期ガンを宣告されたグリーン夫妻の心境に通じる。「結末がわかっていても、進むしかない」のだ。
結末がわかり切っているからこそ、終わりのときを恐れ、グリーン夫妻とプレイヤーの気持ちは重なり合う。久々に、これほど感情移入できるゲームに出会えた。

ときおり挿入されるミニゲームがストーリーを中断してしまい、グリーン夫妻への感情移入を妨げるときもあるが、ゲームとしての欠点はそれぐらいではないだろうか。
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「全編英語」であり、字幕のないシーンもあるのでヒヤリング能力は必須だが、もしその条件を乗り越えられるなら、やってみる価値はある。

評価:6(面白い)

課金:
なし

おすすめポイント
暖かなグラフィックと、効果的な音声
結末がわかるから祈らずにいられないストーリー

気になるポイント
ヒヤリング能力必須
邪魔なミニゲームが少しある

(バージョン1.0.2、ゲームキャストトシ)

アプリリンク:
That Dragon, Cancer (itunes 600円 iPhone/iPad対応)

動画: