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『Time Locker』製作者インタビュー。「人間は、好きなものしか作れない」から独立した男

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プレイヤーが操作していない間は時間が止まり、ある程度じっくり考えて遊べる独特の間。
上下左右に気持ちよくスライドする操作感とローポリの不思議な世界。
シューティングゲーム、『Time Locker』にいまだハマっている方も多いと思う。ゲーキャスもその1人だ。
こんなゲームを、どんな考えをもってどのように作ったのか。気になったので、今回作者のotsukaさんに直接お話を伺ってみた。
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まずは、otsukaさんの経歴を聞かせてください。

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今の仕事は、ゲームの個人製作一本です。
元々はFlashの2Dを扱ってウェブサイトを作っていて。
その後、ソーシャルゲームの開発に携わり、2015年の11月に独立しました。今年30になります。

nama
ゲーム開発。具体的にはどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

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僕は、元々プログラマーだったんですけど、Flashをやっていた関係でアニメーションの方が得意だったのでソーシャルゲームの開発現場ではだんたんとアニメをやるようになって。
何でもやっていましたね。どれも中途半端でした(笑)

nama
何でも屋……それで、1人でゲームを作る土壌ができたんですね。
さて、ゲームの話しに行きたいと思います。Time Lockerを作ったきっかけは?

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もともと、小さいときから工作とか絵を描いたり、全部1人でやるのが好きだったんです。その一環でゲームを作りたいと思って。
時系列に沿って話していくと、ウェブでいろいろ言われているんですけど、『SUPERHOT』との出会いから始まりました。
2013年にデモ版が出て、すごい感動したんですね。

nama
確かに、Time LockerにはSUPERHOTの影響が強く見られますね。ゲームキャストの紹介記事でもそう書きました。

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ところが、SUPERHOTを作りたかったわけではないんです。
元々は、独立したら有料ゲームで『Limbo』みたいなどっしりしたゲームを作りたかった。
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▲もともとは、こんなのが作りたかったらしい…!

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そう思っているところに『クロッシーロード』が出てきて、びっくりしました。無料なのに、広告はプレイヤーが選択してみる形式だったので、これならゲームの邪魔にならないゲーム画面に出てくるバナーが嫌いだったので、これだと。
それに、無料だと、お金の価値が全然違う国の人でも遊んでくれる。世界の人が平等に遊べると思って、無料ゲームを作ることにしました。
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▲クロッシーロード。Limboの影も形もない(笑)

nama
では、クロッシーロードが原点にあると。

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はい。でも、クロッシーロードのコピーは作っても仕方ないなって。
そこで、悩んでいるときにSUPERHOTを思い出しました。このすごい時間凍結のシステムを、クロッシーロードに当てはめたら面白いな、と。
最初は撃たないで避けるだけにしようとか、いかに暴力的なところを排除して、簡単で、誰でも受け入れられるようにするか考えていました。

nama
確かに、暴力がないゲームはより多くの人に受け入れられる印象がありますね。クロッシーロードから、どのように今のゲームになっていったのでしょうか?

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僕は、初期の『バイオハザード』が好きで。プレイステーションを遊びまくっていました。
それからしばらくゲームしなくなってから、またEAの『DEAD SPACE』にすごくはまって。撃つ快感が好きで、どんなに非暴力的な物を作ろうとしても、端々に出てしまうんですね(笑)
自分が好きなように作ったら、結局、シューティングになりました。

ゲームシステムとしては、『Shooty Skies』に近くて。センセーショナルな目立つ部分は、SUPERHOTなんですけど、Shooty Skiesのパクリと思われることを恐れていました。
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nama
見た目については、どのように決定したのでしょうか?

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ゲーム制作の最初で、クロッシーロードに影響を受けていたので、ボクセルにしようかな、とかいろいろ試しているなかで、自分の作風が一番出るのが、ローポリのモデルでした。
1人で作っていると時間に限りがあるので、何を削るか考えたとき、テクスチャが1番時間がかかるので、素材むき出しと割り切っちゃいました。
時間が削減できますし、アプリのバイナリ容量も減るので。結果的にSUPERHOT に似てしまいました。

▲開発初期のTime Locker動画。ゲーム内容を決める前からローポリ路線だったという。

nama
なるほど。SUPERHOTの影響を受けていると思ったのですが、単にローポリだったのですね(笑)
だから、半透明とかサイバーな演出はないと。しっくりきました。
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▲SUPERHOT。結構、ポリゴンやモデルの感じは違う。

nama
実は、ゲームキャストではTime Lockerを紹介する中で、SUPERHOTのパクリ論争があったのですが、otsukaさんとしては、「やってはいけないパクリ」についてどのように考えていらっしゃいますか?

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ゲームに限らず、プラットフォームが同じだったら良くないと思います。Time Lockerは見下ろし型のシューティングにしていますけど、これをSteamで出したら良くなかったと思う。
強く影響を受けた相手と同じプラットフォームにだすと、相手に迷惑がかかる(利益を奪ってしまう)から。ギリアウトになってしまうかな、と。
あとは、ゲームの楽しさというか、面白く思う部分が同じかどうか。
SUPERHOTと、Time Lockerは違う物になっていると思います。

nama
自分は、面白く思う部分が違って、同じプラットフォームでも時間がたっていればOK派なので自分より少し厳しいですね(笑)
答えづらい質問だったかもしれませんが、ありがとうございます。さて、ゲームで特にこだわった部分などはありますか?

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操作ですね。スマホゲームを作ると、ゲーム機の面白さをいかにスマホで再現するか考えてしまう人もいますが、僕の考えではコントローラーとタッチパッドってまったく別物なんです。
全く違うように作らないといけないし、スマホのゲームで遊んでいるプレイヤーに、「コントローラーでやりたい!」と思わせたらダメだと思うんですね。
逆に、ゲーム機でやって「これがタッチパッドならいいのに」と思われても良くない。

そこは最初から頭に入れて、こだわっているところではあります。
Time Lockerは、ゲームパッドではできないゲームになったと思います。

nama
確かに!スライドする気持ちよさは、タッチパッドだけの物だと思います。
Time Lockerが4方向にしか移動ができないところにも、こだわりを感じました。
1回ずつスライドするゲームは、斜めに正確に入力するのが難しくてクソゲーになりがちなんですが、そのあたりわかっているなー、と。

あと、「ピロポンパン♪」という爆発音もこだわりの産物に見えますが……いかがですか。

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効果音は、最初に銃声とかをいれてみたんですけど、合わなくて。
時間の流れがあるので、長い音は使いづらいんです。時間の流れが遅くなったり、早くなったりすると音が変わってしまうのです。
結果的に、口の音を加工して使いました。「ぱ」とか「ぽ」とか、声を録音して使っているんですよ。
音楽は好みが分かれると思っていて、好き嫌いが分かれなさそうな物をいれました。

nama
効果音が妙な中毒感を生み出しているのですが……それは、必然が創り出したものだったんですね。
さて、そんなこだわりが詰まったゲームですが、リリースしてからの反応などはいかがですか。

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おかげさまで評判はいいです。
反応に関しては、国ごとに全然違うのが面白いんですよ。
日本の人たちは普通に楽しんでくれるんですけど、アメリカ人の反応は結構違って。
面白いは面白いんだけど、キャラクターを消費する(※Time Lockerのキャラは3回使うと消える)のが嫌だ。永久にアンロックして欲しいと。
日本よりもクロッシーロードが流行ったのでその影響かな、と。その文化が根付いているんですかね。
使うと消費していく概念が、良くなってないのかな、と。

nama
中国や韓国はどうですか?

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読めないからわかりません(笑)中国、台湾、香港はイイ反応があるみたいなんですけど。
今、中国はiPhoneの所有率が低いはずなのに、Time Lockerのユーザーの半分近くが中国なんです。やっぱり、人口が違うなぁ、と。韓国ではあまり流行っていません。

nama
なるほど。そういえば、Twitterで餓死寸前と聞いて急いで紹介記事を書いたのですが、完全に仕事を辞めて制作していたのでしょうか。また、今は生きていけそうですか?


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もともと、会社に勤めながら作っていました。しかし、勤めながらだと進まなくて、会社の仕事に身が入らなくなってしまって。
これは集中しないと完成しないと思いまして。仕事を辞めて開発に専念しました。

nama
TimeLockerで食える手応えがあったから、仕事を辞めたのでしょうか。

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ないけど、やるしかないというか(笑)
デッキを組んでパズルだったり、なんだったりというのを作っていたんですけど、プレイをちゃんとしていなくて。
僕自身が、そういうゲームに合っていないと思っていました。
自分1人でゲームを作ると決めたときに、私の父に「好きに作ると良いけど、何があってもゲーム制作でやっていく覚悟があるんだな」と確認されて、「はい」と(笑)

nama
結婚されているのに、すごい決断……!
では、そのTime Lockerの調子はどうですか?

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8ヶ月間かけて作ったんですけど、その分の生活費はようやく元を取れたかな、というぐらいで。
もっとちゃんと稼がないと次の作品が作れません。
7カ国ぐらいのApp Storeでおすすめ新着ゲームで出ていたのですが、もう日本以外掲載が終わってしまって。
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▲8月7日時点で、おすすめ新着のラストに……!

ミニゲームなので、ライフタイムも短いですし、(新着から消えたら)一気に流入がなくなると思うので、厳しい状況ですね。
今は、アップデートと課金の仕組みを作って、AppStoreの説明文を各国語に最適化しようとしています。

nama
7カ国でおすすめに入っても、採算ギリギリ……。

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今、20万ダウンロードです。

nama
え、それ、いい方ですよ。でも、それで成り立たないんですね。

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広告の収入に関しては、1ユーザーに対する動画再生数はリリース前の予想より結構高くて助かっています。
でも、ダウンロード数はそんなに多くないという状況。
100万ダウンロードが分岐点だと思っていて。そこまで行かないと生活が成り立たない設計になっているんですね。

nama
100万本を分岐点に考えるってすごいですね。
ほとんどのゲームは100万は行かないと思いますが。

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今の状態で、損益分岐点には行っています。でも、ゲームって常に当たるものではないです。
1回のヒットで、少なくとも数年間生きられる蓄えがないと続けられないと思うんですよ。そういう意味で、100万ダウンロードが1番低い目標だと思っています。
ゲーム作りを続けたいので。

nama
いわゆる、放置系ゲームとかは1ダウンロード当たりの収益が高いので、App Storeにはやたらと増えていますが……20万DLで左うちわだと思います(笑)
なぜ、そういった収益構造が良いゲームにしなかったのでしょうか。

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え、そうなんですか。知りませんでした(笑)

nama
おっと(笑)
では、知った今ならどうされますか?

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放置系ゲームが儲かると聞いても、やりたいとは思わないですね。
人間って、好きなものしか作れないと思うのですよ。好きでないものを市場に合わせて作っても、頓珍漢なものしか作れない。 
自分が好きなものを作ったときに、良いものが作れると思うんです。自分が1番のプレイヤーですから。自分を裏切れません。
そして、自分が面白いと思った者を面白いと思ってくれる人数は、おそらくそんなに少なくないだろうと思って(独立してゲーム制作を)始めた。
そう思えていなかったら、会社は辞めなかったと思います。

nama
その言葉を聞いて、安心しました。余計なことを言ってしまって、次回作が放置系になったらどうしようかと(笑)
そう、次回作の構想はありますか?

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いくつか頭にあります。数本はカジュアルで、有料でやりたい案もあります。
スマホでもう1回か、2回ぐらいはカジュアルをやった方が良いかな、と思っています。
ただ、しばらくはTime Lockerのアップデートですね。1月に1度ぐらいアップデートしたいので、楽しみにしてください。

nama
しばらくは、Time Lockerなんですね。じゃあ、もっと楽しめるようにちょっとした攻略とか教えてください。

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道をふさぐ砲台は、倒さなくても消せます。撃っている方向と逆方向に移動してください。すると、消えます。
あと、青い箱が出てきたら絶対取ってください。青い敵を見逃してもまた出てきますが、箱が出た後に取り損ねると、ゲームの内部処理的に消えます。

nama
ありがとうございます。最後に、プレイしている皆さんに、一言お願いします。

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本当にありがとうございます。感謝しています。

以上。
あの、絶妙な操作感はやはりこだわりぬいてつくられたものだったらしい。
また、何よりも「自分が作りたいものを作る」というインディーゲームらしい気概を話していて強く感じられた。
これからのアップデートと、otsukaさんの次回作が今から楽しみでならない。

また、今回のお話で『Time Locker』のルーツも聞くことができたので、ハマったプレイヤーの皆さんは関連するゲームも合わせて遊んでみて欲しい。

Time Locker関連ゲームたち:
TIME LOCKER - Shooter (itunes 無料 iPhone/iPad対応 / GooglePlay)
SUPERHOT(Steam)
クロッシーロード (itunes 無料 iPhone/iPad対応)
Shooty Skies (itunes 無料 iPhone/iPad対応)
LIMBO (itunes 600円 iPhone/iPad対応)