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あるエンジニアとソーシャルゲームの出会い:ソシャゲ業界の片隅で1

初めましての方も多いと思います。
ゲームキャスト寄稿ライター、アルベルトと申します。

本日より、連載シリーズ「ソシャゲ業界の片隅で」を執筆し、皆さんにソーシャルゲーム(以下、ソシャゲ)開発のあまり語られない本当のことをお伝えします。

この連載は「ガチャの確率操作」や「法律違反を告発する」などのセンセーショナルなものではなく、ソシャゲの末端エンジニアである私が、業界の片隅から見続けた事実を元に1本のソシャゲができるまでの流れを書きつつ、その中で皆さんがソシャゲについて疑問に思っていることを解決していきたいと思っています。

ソシャゲ非難・擁護どちらにも偏らず、中立で書けるように努めたいと思っていますので、よろしくおつきあいください。

さて、第1回は私とソシャゲの出会いについて、自己紹介もかねて書いておきたいと思います。

ソシャゲとの初めての出会いは4年ぐらい前になります。
それまで、私はゲーム業界にあこがれたけども、就職できなかった、どこにでもいる小規模IT会社のプログラマーでした。
が、ある会議に呼ばれたことから人生の転機が訪れます。

「アルベルト、お前ゲームは詳しかったよな?」

と声をかけられ、会議室に入ると社長と見知らぬ男(ここではAとします)が1人。

「おい、アルベルト。無料ゲーム(記憶が曖昧ですが、当時はまだソーシャルという呼び方をしていなかったように思います)が儲かっているらしい。少ない投資で月1000万以上の利益を出すこともあるんだと」
「無料ゲームで儲かるんですか?」
「途中からは金を払わないと先に進めない仕組みになっていて、「ここまで来たのにやめるのはもったいない」という気持ちになって金を払うカスタマーが沢山いるってよ」
「はぁ……」
「Aさんは昔ソーシャルゲームをやっていて、そのソーシャルゲームのソースコード(プログラム)を売ってくれることになっている。
で、これがうちの会社で扱えるものか、何となくでいいから見てくれ」

これがゲームと言えばアーケードの対戦ゲームだった私と、ソシャゲの初の出会いでした。
当然ながら何も知らないので、その日は「無料ゲームについて勉強するから待って欲しい」と、1週間後に会議は仕切り直されることになりました。

その日から無料ゲームをする日が続きましたが……が、あまりのつまらなさに驚きました。

カードでデッキを組んで、ひたすらガラケーのボタンを押していくだけ。
ボタンを押すたびに体力を消費し、クエストの達成度が上がって、100%になるとボスが出現し、バトルに勝利すると新しいカードがもらえる。
見せ場のはずであるバトルはデッキにいるカードの攻撃力・HPの合計だけで結果が決まり、なにも操作できない(当時は本当に簡素なゲームしかなく、スキルの概念がないゲームが多数派でした)。
対人戦で宝を奪い合い、宝をそろえるとレアカードがもらえるのですが、対人戦もやっぱり自動で決着がついてしまう。

「誰がこんなものに金を出すんだ?」

と不思議でしたが、情報を調べていくとどうやら儲かっているらしいのです。

「死ぬほどつまらない!」と思いながら1週間が過ぎ、再び会議でソースコードを見た私は、その動きを追うことができました。

なぜなら、ソースコードの題に****(当時サービスしていたゲーム名、私も1週間の間にプレイしていました)エンジンと書いてあり、そのゲームを想定してプログラムを追い、コメントを見るとソースコードの意味が何となくわかったからです。

「Aさん、これは今サービスしている****のソースコードではありませんか?」
「はい、その通りです。実際に動いているゲームのソースですから信頼性はあります。
このコードも元々他社からエンジニアが持ってきたものを改造しているので、ばれても深く突っ込まれないのでご安心ください」

業界が混沌としていた時期だからこその事件ですね。
当時は管理体制もずさんで、派遣の社員などがソシャゲのコードを持ちだしてしまうことも多かったようです。
現在は参入コストが上がり、業界も成熟してきたためかこういったことは聞きません。
が、低コストで参入できた昔は、持ち出されたソースコードを元に参入するメーカーもあったとか(しかも、本業のイメージに影響を及ぼさないように社内で別会社を立ち上げることもあったようです)。

結局、私のいた会社でソシャゲを作ることはありませんでした。
私が他社のコードを勝手に使用することに反対したのもありますが、アクセスを支えるサーバー設計ができるエンジニアが出向で出払い、すぐ戻ってくる当てがなかったことも大きいですね。
そのまま、ソシャゲとの縁は終わりかと思ったのですが、程なくして世の中はソシャゲブームに沸き立ち、PHP(ソーシャルゲームでよく使われるプログラム言語)の需要が高まり、私はソシャゲ会社に出向することになります。

「我が社で最もソーシャルゲームに詳しいエンジニアです」

という触れ込みで。

運良くお客さんの期待に応えることができ、自信をつけた私はそのままソシャゲエンジニアとして、ブラウザ系のゲームをメインにいくつもの現場を見てきました。
これから連載として、私と友人数名から得た情報を混ぜて特定を避けつつ、ソーシャルゲームについていろいろ書いていきます。

個別の返事はしませんが、コメント欄で質問されたことに関してはできるだけ今後の連載でフォローしたいと思っておりますので、何かあればコメント欄にお寄せください。

次回はソーシャルゲーム開発者は自分たちのゲームを面白いと思っているのか、プレイヤーをどう思っているのか、について書きたいと思います。