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2010年iPhoneゲーム大賞候補を語る1【CHAOS RINGS】


ようやく、個人ブロガーが選ぶiPhone 2010年ゲーム大賞も折り返し地点。
1月20日までエントリーは可能だが、大賞・パズル賞などの各賞のノミネートが始まった。
こちらで、現在ノミネートされている大賞候補が閲覧できる。

本日より、いろいろ大賞に推薦された作品について細かく書いていく。

今回はiPhoneACさん推薦のRPG、CHAOS RINGS(iPhoneACさんのレビュー記事へ)。
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CHAOS RINGSはスクエアエニックスによる、美麗なグラフィックと最適化された操作、家庭用機のようなボリュームをもつ大作RPG。
有名すぎるし、私としても過去にAppStore史に残る秀作RPG、CHAOS RINGSとレビューを書いているので、今回はゲームよりもCHAOS RINGSの立ち位置的な切り口で語ってみようと思う。
ちょっと無理やり引き出している感があるので、勝手な推測の記事ということを踏まえた上で閲覧していただきたい。
iPhoneのアプリ開発のスケール・予算などを知らない人間が知ったかぶりしている程度の記事ということでひとつ。

CHAOS RINGSが生まれた時代
たかだが9ヶ月前の話で時代、というのは大げさかもしれない。
しかし、急成長を遂げているAppStoreにとって半年前は一昔である。
当時のAppStoreはまだまだ混沌としており、今のように「携帯ゲーム機のようにすごい」ゲームは少なかった。
N.O.V.Aや、Avatarなどゲームロフトのゲームが健闘していたが、iPhone/iPod touchのゲームとしてはすごくても「携帯機のアクション」の範囲を超えられていなかったように思う。
アプリ価格は高価格帯でも600円~800円、最高レベルでも1200円で、それも数カ月で定価が半額程度に下がるものだった。
このデフレ市場で
「果たして商売になるのか?」
そこそこの規模の企業としては参入に関して懐疑的だったに違いない。
私はもちろん、メーカーの人間ではないので断言はできない。
が、新規市場として期待されつつも、多くのメーカーが探り探りで(今もそうだが)やっていたのが当時の状況かと思う。

素人の予想だが、仮に1月コスト60万円の社員3人で3ヶ月でゲームを作ったとして、費用は60×3×3=540万円。
115円のアプリを販売したとして、Appleの取り分が30%なので、一本約80円の利益(実際にはAppleは$換算して支払われるという噂もあり、開発側に入るのはもっと少ないかも知れない)。
元手を回収するためには78000DL、350円なら25000DLを達成しなければならない計算だ。

最近マーダークラブが限定1000DLで値下げをしたときランキング2位に入ったことを考えると、日本ストアだけでこれを稼ぐことはかなり厳しいと考えざるをえない。
この条件で儲けられるのは腕のいい個人系・小規模開発ぐらいしかないのではないだろうか。
メーカーは世界規模で見ていたので、また視点が違うかも知れないが、それにしても単価が安すぎて全力で踏み込むことをためらう市場でだったと思う。


CHAOS RINGSに課せられた使命
そんな中発表されたCHAOS RINGSの価格1500円は衝撃的だった。
プレイ時間は公称40時間と家庭用並でiPhoneでは最高レベルのグラフィック。
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スクエアエニックスという家庭用RPGでは世界レベルのブランド。
家庭用で必ず売れる理屈を、値段をモバイルに合わせて持ち込んだのだ。
「内容に比べて安すぎる」
「AppStoreでは高すぎる」
と発売前から議論百出。
まさに注目のゲームだった。
これが売れなかったら…恐らく、有名な会社でもスマートフォンに開発資源を投入できないと判断したことだろう。
なにせ、あのクオリティで天下のスクエニ様が売っても売れないのに、大作ゲームを簡単にヒットさせられるわけがない。
スマートフォン開発がなくなることはなくても、思い切って投資するハードルは上がり、日本の会社の立ち上がりは半年以上遅れたかもしれないと思う。
1500円という値段は4gamerのインタビューにあったように、かなり悩んでいたようだ。
逆に売れれば「1500円で家庭用みたいなゲームが売れる」という事を見せつけ、iPhoneに新たなゲームを呼び込む可能性があった。
大げさに言うと、このゲーム次第で日本のゲームメーカーの動きが左右される、「iPhoneゲームの未来の為に売れなくてはならない」作品だった。
いや、N.Y.Timesに紹介された
ところを見ると、海外のメーカーの動向まで左右していたかも知れない。


CHAOS RINGSの示した未来
幸い、誰もが知るようにこのゲームは売れた。
それもJRPGが強い日本だけではなく、各国のランキング1位を獲得したのだ。
あのAngry Birdsですら一時期は席を譲っていたほど。
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この事により、「AppStoreのユーザーは高値でも質の高いゲームには金を払う」ことが実証され、「専用ゲーム機の論法でも売れるものは売れる市場がある」とメーカーに示すことができた。
ユーザーに対しても「ファイナルファンタジーの会社がちゃんとつくったオリジナルのRPGがiPhoneにある」ということで、特に日本では「iPone/iPod touchのゲーム機としての知名度」を大きく上げ、ユーザー側の意識も変えた。
これは、私がゲームをしない人に「ゲーム機としてのiPhone」を説明するときは「スクエアがちゃんとRPGを出している」と言うだけで「へぇ」と納得してくれるのを見ての実感である。
CHAOS RINGS発売の瞬間、日本のiPhone/iPod touchは初めて「ゲーム機」としての地位を手に入れたのではないかと思う。
「iPhoneのゲーム機時代」とも言える2010年度はCHAOS RINGSによって幕を開けたのだ。


スクエアエニックスを押し上げた一作
以上から、CHAOS RINGSはAppStoreの歴史的にも大賞候補にふさわしい作品と言えるだろう。
私自身、ノミネート作品決定の最後までSuper Quick Hookと並べて悩んでいた。
コアゲーマーとしてこのゲームの繰り返しと戦闘の簡単さ、唐突なパズル要素が不満があったのでふるい落としたが、思い返すと今でもまだ悩むほどだ。
CHAOS RINGSはAppStoreにおけるゲームの未来を切り開き、スクエアエニックスを(私の中では)AppStoreのリーディングカンパニーの1つと認識させた。
ゲームロフトのように多作ではないが1500円という価格帯を作り(それはまだCHAOS RINGSだけのものだが、あと半年で別のメーカーがやってくると信じている)、家庭用ゲーム機ばりのオリジナル作品を作ってくれる。
反面、スクエアエニックスはボイスファンタジー、ソングサマナーなど「タッチパネル」以外でiPhone/iPod touchの特性を生かした意欲的なアプリをリリースするメーカーという側面も持つ。
大作を作りながら新しいチャレンジし続けるトップランナー、スクエアエニックスとCHAOS RINGSが切り開いていくこれからのAppStoreにも期待したい。

CHAOS RINGSのDLはこちら(itunes)
CHAOS RINGS for iPadのDLはこちら(itunes)